ルルの過去-2
ルルが3日かけて連れて来られたのは、山の中の小屋が数件立ち並ぶ小さな集落だった。
小屋の外では、酒を飲む男達や集落の廻りの警備にあたる者、沢山の男達がいたという
連れてこられた場所が中央では無いと気がついたルルは、側にいた騎士の一人に疑問をぶつけた
「ねぇ、ここはどこ?中央に行くんでしょ?」
ルルの不安そうな顔を見た騎士は手を大きく拡げ笑いながら答えたそうだ
「ようこそ!奴隷の村へ!」
ルルが連れてこられたのは、ガイロン国内で犯罪奴隷や借金奴隷、村などから安値で買い取ったり誘拐して来た者達の牢獄だった。奴隷として販売する前にここで調教するのだ。
「いやだ!帰りたい!村に帰して!嘘つき!!」
泣きじゃくり暴れるルルを偽騎士達は、集落の中でも一番大きな小屋へ運んだ。
中に入るとルルの口には布が噛まされ、身体をロープで椅子に縛りつけられる
声も出せず身体の自由も奪われたルルは涙を流すことしかできなかった。
部屋の中央には、大きな木のテーブルがありその上には、ルルに見せつけるように鞭が置いてあった。
それだけでルルの身体を恐怖が支配していく
ルルが座らせた席の正面に一人の男が座っているのに気づいたルルは視線を男にむけた
「!?」
男はルルを見るなり目を見開き驚愕の表情を見せたがすぐに落ち着くと自己紹介を始めた
「やあ初めまして、僕はローレル・ファンズ、ここで一番偉い人だよ」
20代半ばの整った顔立ちの男は、肩まで伸びた黒い髪をかきあげながらニコリと微笑んだ
「君の髪と瞳はすばらしい…将来はとても素敵な女性になるだろう」
そう言うと、側に控えていた老人に何やら耳打ちしたあと偽騎士に視線を向けた
「君たち…その物騒な物をテーブルから退けてくれるかな?」
ローレルの指示でルルの前にあった鞭は退けられた。
「話をするのは、食事が来てからにしようか」
そう言うと男はまじまじとルルの顔を観察し始める
数分後、奥の部屋からメイド姿の女性が数人現れテーブルの上に豪華な食事を並べはじめる。
道中 干し肉や木の実しか食べていなかったルルの前にも、ローレルと同じ物が並べられた。
一瞬にして部屋の中は食欲をそそる香りに包まれ、ルルは涙を流す事も忘れ 今まで見たことの無い豪華な料理に見とれてしまった。
「好きなだけ食べてもいいんだよ?僕の話を聞いてくれるならね」
ローレルの言葉に思わず喉が鳴る
まだ6才…お腹をすかせたルルには、あまりにも大きな誘惑だった
大人しくなったのを確認するとローレルはルルの側にいた偽騎士にルルの口と腕を自由にするよう促した
「食べながら聞いてくれればいい」
食事作法など習った事のないルルは、フォークを取ると豪快に食べ始めた。
その様子を少しの間見守ったあとローレルが口を開いた
「そのまま食べながら聞いてくれ、僕達は君に危害を加える気はない
あ!もちろん…君が大人しくしていてさえくれればね?
それと君にはここで礼儀作法や料理の勉強をしてもらう…いい子にしてれば、寝る場所にも食事にも困らない生活を送れる。」
ルルは幼いながらも奴隷がどういったものか理解していた
毎日鞭で打たれ、無理な労働を強いられる…だがローレルの言ってる事はそれとは正反対だ
「嘘だ…またルルを騙すつもりだ」
「嘘じゃないさ、現に今君に食事を提供してるじゃないか」
ルルは目の前の料理に目をやる
こんな豪華な食事を奴隷に食べさせるなんて普通じゃありえない、幼いながらもそれは理解できた、だがルルにとってはそんな事よりもっと大切な事があった
「ルルは…村に帰りたい…」
止まっていた涙がまた溢れだす
「そっか…じゃあ僕と約束をしないか?」
「なに?」
「ここで僕の言うことを聞いて、賢くしててくれるなら君の居た村を助ける事を約束するよ」
「お待ちください、ローレル様!」
ローレルの言葉を聞いていた偽騎士の一人が慌ててローレルを止める
「奴隷ごときにこのような豪華な食事を与え、その上あの村を助けると!?」
ローレルは呆れたように溜め息をつくと、偽騎士を睨み付けた
「ひっ!?」
「少し黙っててくれるかな?僕は今、ルルちゃんと大切な話をしてるんだ」
ルルの方へ視線を戻したローレルは穏やかな笑みに戻っていた
「ルルちゃん?どうかな…?」
「ほんとに…村を助けてくれる?」
「あぁ、約束するよ…数人の戦闘奴隷を村に住まわせ、ドワーフ奴隷に魔物避けの壁を作らせようじゃないか」
「約束……」
この場から逃げられたないルルにとって選択肢など無かった。
だからルルは静かに頷きまた料理を口に運んだ