ルルの過去
ルルの話は、凄く悲しい話だった。
ルルはガイロン西村の小さな家に生まれた
父は冒険者だったが、ルルがまだ一歳にも満たない頃ヘビ型の魔物との戦闘中、脚に致命傷をおい冒険者を引退した。
この世界には身体再生の魔法が存在するが、一般人が一生かけても稼げない程の金額が必要だった
働けなくなった父の代わりにルルの母はルルを父に預けて、中央(center)に出稼ぎに向かった、それから数年、ルルが四歳になった年、中央(center)から一人の女性が父に会いに来た。
女性は、母が病で死んだ事 最後の時までルルの名を呼び続けた事を伝えにきたそうだ。
その女性が帰った明くる日の朝、ルルが目覚めた隣には首を吊った父の姿があった
村の者が発見した時、まだ四歳だったルルは、父が死んでいる事に気づかず「おとたん!おきて!おなかすいた」と吊り下がった父の脚を揺すっていたという。
それから、身寄りの無いルルをどうするか村で話し合いが行われた
赤ん坊の時から可愛がって来たルルの事を粗末に扱う事など出来なかった村人達は、皆で面倒を見る事を決めた。
それから二年の月日が流れたある日、村に一人の男が数人の騎士を連れてやってくる、その男は身なりも良く礼儀正しかった。
その男が滞在して2日目の夕刻 村長の家にやって来た男はこんな話をしたそうだ
「私は、中央(center)で ある公爵家に雇われて人探しをしております。その公爵家のご婦人は昨年、最愛の娘を病で亡くしてしまった事により 精神病を患ってしまいました。『娘はどこへ行ったの?』『死んでなんていないわ!』と毎日死んだ娘を探し回るようになり……そこで、見かねた公爵様が私に死んだ娘の替わりを探すようにおっしゃったのでこうして旅をしております。探しているのは、年は6歳、髪は水色、そして女の子……」
そこまで言われて、その場に居たルルは、この男が何を言いたいのかわかった
「それは…この娘、ルルが欲しいということですか?」
村長はチラリとルルを見たあと、男へ視線を戻し続けた
「申し訳ないが…それは出来ぬ」
「なぜです?」
「ルルの事は儂等で大切に育てると決めたんじゃ」
「この…なにもない小さな村でですか?」
その言葉を聞いた村長は、何も言えず肩をすくめる
「この村を一通り拝見させて頂きましたが、若者は居らずお年寄りばかり…一緒に遊べる友達も居なければ、語学や教養などを教える者も居ない…しかも食べるものにも困ってるようですね、公爵家の娘になればそれが全て揃うのですよ?それと、ここはゴブリンの森の側ですよね?いつ大量のゴブリンが襲ってくるかも分からないこんな村より、中央のような安全な場所で育って欲しいと思いませんか?」
「それは…すばらしい事だと思う…だが…」
何か言おうとした村長はそのままルルの方へ体を向けて「すまんがルル、ケフィさんの所で待っててくれぬか?」とルルを退席させた
ルルはどんな事があっても村長が自分を他へやるとは考えて居なかったので軽く頷くと外へと出て行った。
ケフィおばさんの家への道中、男と一緒に来た騎士の一人に声をかけられた。
「ルルちゃんだったよね?」
「うん……」
「その様子だと、僕達がここに来た理由知ってるみたいだね」
「さっき聞いた…」
「そっか…ルルちゃんにいい事教えてあげるよ」
「?」
騎士はルルの耳元でこう話したそうだ
「ルルちゃんが僕達に付いて来てくれるなら…この村に騎士団を派遣したり、この村の周りに頑丈な魔物避けの壁を作ったり、公爵様がいろいろしてくれるんだって」
騎士の言葉を聞いたルルは、村長の家に急いで戻った
「どうしたんじゃルル」
「ルル中央に行きたい!」
「!?」
「ルル公爵様の娘になる!」
そう言った瞬間、目元が熱くなり涙が零れはじめた
「な!何を言っておる!」
村長が止めるのを無視して
ルルは男のそばまで行くと涙を流しがらお願いした
「ルルを連れて行って!お願い!」
そんなルルを見た村長は、先程の男の言葉を思い出し、ルルが望むのならと 涙ながらに了承したのだった。
しかし、村を出た男たちは中央へ向かう事は無かった。