~ゴブリンの森1~
私が目覚めた場所は、森の中だった。
360度見渡す限り木のみ…風に吹かれて木々がざわめき、風と一緒に土や草や木の臭いがやって来る。
私の新たな出発には最高の場所だった。
森の空気を肺いっぱいに吸い込んで深呼吸してみた、心も体もリセットされるような感覚に浸りながら、先程の神との会話を思い出し、頭の中で整理
ここは第二の地球メゾリアの森
授かったのは、『神羅羽』
そして、私を転生させた神は…糞。
加護的な物をくれたのは、感謝してる。
けど、メゾリアの説明もなにもなしで放り出すなんてあんまりだ!糞以外に例えようがない!
外面は深呼吸しながら穏やかに、内心は神への怒りで爆発しそだった。
けど、いつまでもイライラしてても始まらない…取り敢えず、神羅羽の性能チェックと行きますか!
「さあ、私を満足させてよ?」
なんとなく、手を天にかざしながら名を叫ぶ
「神羅羽!!!」
身体中から何かが背中に集まる感覚が起きたその直後『バサッ』と言う効果音と共に私の背中に翼が現れたのだ
首を後ろに向ける事なく確認出来るほど大きな漆黒の翼、意識せずとも 産まれ持ってそこに有ったかのように私に従う翼
すごい!小さな頃からの夢、人間の二人に一人は夢見るはずの『空を飛ぶ』が、叶う日が来るなんて!
私は思い切り地面を蹴りながら、翼をしならせ空高く舞い上がった。
「さいこーう!!!ありがとう!神様!」
先程までの神への怒りが嘘のように消え失せた私は、まだまだ高く続く天へと叫んだ
よし!これで近くの街までひとっ飛び!周りを見渡しながら向かう方向を見定める私の耳に突然、悲鳴が飛び込んできた。
「きゃーーー!」
「魔族だ!逃げろ!」
声の元へと視線を向けると、薄汚れた衣服に身を包む2人の人影
「え?魔族!?どこ?え?魔族って魔族だよね!?魔族とかヤバくない!?」
無意味に『魔族』を連呼しながら背中に嫌な汗が滲む、転生して数分で、命の危機を感じた私は、辺りをキョロキョロ見渡す…………けど、その2人組以外影も形もなかった。
「え?何にもいないけど?」
不思議に思いながらも 辺りを警戒しつつその2人組の元までゆっくりと降りていく
「魔族ってどこ?」
地に足を着けた所で、目の前で腰を抜かす女性に声をかけてみたが、女性は口をパクパク動かすだけで返事はなかった。
もしかして、言葉が通じないのかな?
女性との会話は諦め、女性の背後で木の棒を構え、足をガクガク震わす男性に、もう一度同じ問いかけを試みた
「ねぇ、悪魔ってどこ?上から見たけどそんなの居なかったよ?」
空を指差しながら冷静にゆっくりと言葉を発してみるが、このあと予想外の事実を知った
「わ私たちをどうするつもりだ!魔族め!」
口元まで震わしながら威嚇している男性の視線は確実に私を捉えてた
「えぇ?私!?」
男性の言葉の意味が分からない…男女はどう見ても人間…私となんら変わらない…肌の色だって男性は日焼けのせいなのか少し黒いだけで、女性の方は私と変わらないくらい白い肌だ、この二人は何故私が魔族だと思ったのだろう
「魔族が何故こんなところに…」
眉間にしわを寄せながら、棒をギュッと持ち直した男性は誰に問いかける訳でもなく、小さく呟いた
いやいや!折角の第一村人なんだから!早く誤解を解かないと
「私は悪魔なんかじゃない、どっからどう見てもあんた等と変わんない人間じゃん!」
その場でグルグル回ってみたり、手を広げてみせたりした、その私の行動にいちいちビクビクと反応する男性は、恐怖と脅威の表情をこちらに向けたままゆっくりと女性の前へ守るように移動した
「な、何が人間だ!その背中に生えた翼が、お前が魔族だと語っている!」
「へ?」
チラリと自分の背中へ視線をやると、先程出した黒翼がゆらゆらと揺れていた。
あぁ…そゆことね…。
どーしたものか思考していると、男性の後ろで腰を抜かしてた女性が口を開いた
「魔族様…お助けください…私のお腹の中には、赤ん坊が居ります!お願いします 命だけは、どうかお許しください」
自分のお腹を抱え込み泣きじゃくる女性
私、魔族じゃないんだけどな…
まあ、いいか………。
「良かろう!今すぐこの場から去り、ここで妾と会った事誰にも言うでないぞ!誰かに喋ったら……わかっておるな?」
少し偉そうに胸の前で腕を組み、前世で見たアニメの真似をしてみた、ちょっと楽しいw
「は、はい!お約束いたします!」
「では、今すぐ去れ!」
フンッと鼻息を吹かし、顎で男女の背後を指すと「失礼します!」と女性は走り去って行った。男性の方はまだ私に警戒しているようで、木の棒は握りしめたままだったが、女性の背中が遠のくを待ったあと、女性の後を追っていった。
「はあ…結構焦った…取り敢えず消えて」
私の声を聞き届けた黒翼はスッと姿を消した
××××××××××××
「ふぅー!気持ちいいー!」
木々の間を通り抜ける、たまに行く手を阻む草やツルにイラッとしながら私は今、全速力で浮遊?してます!
あの二人を見送ったあと、私は神羅羽の別の使い道を考えていた。
それで、発見したのが 『足翼』だった
その名の通り、脚に翼が生えるイメージで「神羅羽」と唱えると踝に手のひらサイズの黒翼が生えてきた
これは、凄い!空を飛ぶ事は出来ないけど地面から数センチ~一メートル程を自由自在に浮かべ、そして!浮いたまま移動できるのだ!はんぱねぇー
ガッツリ背中から黒翼を生やして空を飛びたい気持ちは有るけど、あのままじゃ、どこの村にも街にも入れない気がする
人里の手前で消せばいいけど、もし飛行中に人間に出会ってしまえば先程の二の舞になりかねない。いや、なるって確信してる
それに、飛行中いきなり翼を消すことは重力上無理!死ぬ!絶対死ぬでしょ!?
でも、足翼なら上がっても一メートル程だから、もし人間に出会っても見つかる前に消せる!どうだ!足翼無敵!
開発した直後は、バランス取るのに必死で前進なんて出来なかったけど、体内時計で三時間ほどひたすら練習した今は、前後左右自由自在!
まあ、1つ欠点を挙げるなら…体勢…。
背中に翼を生やして飛べば、翼はバランス良く全身を支えてくれるわけだから真っ直ぐ立ったままでも、横向きでも好きな体勢で飛べる けど…足翼は体勢が限られる、立ったままかサーフィンのような体勢か足を前後に動かすとか、つまり…足を必ず下にしなければならない…身体を横に倒せば地面とキスする事になる…。
それに、この森の中じゃ 凄く邪魔!空を飛べないなら森の中を!!!と思ったのに、翼がデカ過ぎて木の間を通れない
まあ、悪魔に間違えられる事を考えれば、練習にかかった時間も安いものだ。
「神羅羽!」
私は最初の場所から結構離れた所で、浮遊を止め背中に黒翼を出した
「この木がいいかな…よいしょっと」
辺りを散策ながら見つけた枝の太い大きな木へ飛び上がり 枝の上へ腰をおろした
「さて、これからどうしようか」