胸が苦しい……
デカゴブリンを倒したあの日から今日で二日、私とルルは森の中を宛もなくさ迷っている。
あんなにも寄って来ていたゴブリンはデカゴブリンを倒した後からは姿を見せて居ない。
ルルにその事を聞いてみると「ゴブリンは人間と同じように、群れをなします。洞窟や岩場などに群れで生活し、メスは住処や子供を守り、オスは外へ出て食糧などを調達するんです。
この森には沢山のゴブリンの集落が有ってそれをまとめるのがゴブリンキングなのです。
人間の世界とあまり変わらないですね。
この森が一つの国で、その中に沢山の村や集落が有って、それを見守り、指揮する王様が居る。
だけど、その王様が居なくなった今は、狩りどころじゃないと思います、多分大混乱ですよ!」と分かりやすい説明をしてくれた。
ゴブリンの森には、他のモンスターは生息していないらしく、ゴブリンの森を出るまでは安全だそうだ。
あの日「何でも教えて欲しい」と私が言った事で、ルルは知っている事なら何でも教えてくれるようになった、魔法や地理に歴史までを色々な例え話を用いながら分かりやすく少し自慢気に話すルルはとても楽しげで難しい話が嫌いな私でも、ちゃんと聞くことが出来た。
ただ私の質問に答えられなかった時のルルの落胆ぶりは面白い…。
幼少期に隔離された空間で過ごしたルルは私とあまり変わらないくらい、外の世界を知らない…お金の通貨がどの国も「セシール」で統一されていると言う事は分かったが、平均所得や物価などは知らなかった。
知らないのもしょうがないし、ルルが悪い訳では無いから、普通ならそう言った質問は避ける方が良いんだろうけど、ルルの落胆した姿を見た私にそれは無理だった。
私が何となく気になった質問を投げ掛けた時だった。
「この国…えーと、カリー国だったったけ?可愛い洋服屋さんとかってあるのかな?」
「カリー国には大きな町はあまり無いそうですよ?王都の方へ出れば幾つかは有ると思いますけど、サキ姉さんは洋服が好きなんですか?」
「好きって訳では無いんだけど…今着てるこの服はちょっとなぁ……」
「あぁ…そうですね…ちょっとアレですね…」
そうなのよ…アレなのよ…出しちゃダメな所まで出ちゃいそうだからね…
「洋服っていくら位するのかな?とりあえずまずはお金を稼がないとねー」
「そうですよね」
「ところで、通貨はセシールって分かったけどこの国の平均的な収入ってどの位なの?」
平均収入が分かれば大体の物価なんかも予想しやすくなりそうだし…ってこの時は軽い気持ちで聞いたんだけど…
「え!?収入ですか?えーと…あの…ご…ごめんなさい…わかんないです」
「そっか、じゃぁ…大きな町に着いたら調べてみよっか」
ふと視線を横に向けると、隣を歩いて居た筈のルルの姿が無かった…
「…………ブツブツ………ブツブツ」
後方から何やら念仏のようなもの聞こえ、振り返ると……大きな木の根元にしゃがみ何やらブツブツ言ってるルルが居た。
………居たのはいいし…見た感じは、落ち込んでイヂケてるっぽいんだけど…………何で?何故!?何故ルルの頭上にだけ雨が降ってる訳!?
木の根元にびしゃびしゃの女の子が一人…その頭上には、快晴…の中に小さな雨雲………なんだこの光景は……凄く面白いじゃないの!?
なーんて事が有ってから、歩きながらたまにルルを苛めては、その光景を楽しんでる。
それにしても…少し疲れて来たな……。
「ねぇ…もう黒翼で空から探した方が早くない?」
そう言いながらバサッと翼を出すと、ルルがその小さな身体を目一杯使いながら必死に黒翼に抱きついた。
「だ!ダメですよ!!もし誰かに見られたりして、王都にでも知れたら!大変な事になりますよ!?」
多分ルルの大変な事って、軍隊が攻めてくるって事だよね…それはヤバいや…。
「じゃぁ…やめとく…」と黒翼を閉まった直後、何故か私の胸の奥にモヤモヤした物が渦巻いた。
「?」
私が胸を擦って居ると 異変に気づいたルルが不思議そうに顔をのぞかせた
「大丈夫ですか?そんなに疲れたならどこかで休みますか?」
「ううん…違うの…なんだか胸の辺りが苦しくて…それに背中もムズムズして…」
なんと表現していいか分からずに困っていた私にルルは「ふむふむ」と頷きながら真剣な眼差しを向けてきた。
「それは一刻も早く王都へ行かないといけませんね」
「えぇ!?」
病気とかじゃないと思うんだけど…もしかしたら有るのかな…やっぱり王都まで行かないとお医者さんって居ないのかな?
「何を驚いてるんですか?だって胸が苦しいんですよね?」
「うん…そうなんだけど…」
「じゃぁ!早く新しい服に着替えないと!」
へ???服!?
「なんで服!?」
「え?だって胸が苦しいって………ルルが見てても分かりますよ?凄く胸が苦しそうですもん…圧迫されてますよね?」
ルルの視線は完全に私の胸を見ていた…。
「大きすぎる胸も大変ですね……」そう言って自分の胸を見た…あ…少し唇が尖った。
なんてやり取りをしてると胸の違和感も背中の疼きも治まってきた。
「とりあえず、どこか休める所を探しましょう!」
「ううん…なんか大丈夫みたい!」
「ほんとですか?」
「うん!だからもう少し進もう!」
ルルが心配そうに頷いたので、「ほんとに大丈夫だから」「心配してくれてありがとう」と頭を撫でると、頬を少し赤く染めながら「さぁ!行きますよ!ガイロン西村へ!!!」と照れ隠しなのかそそくさと私の前を歩いて行った。




