6話 ~お屋敷が広すぎる~
「ふぁぁーあ。良く寝たー。」
良い朝だな、空調魔法のお陰で体に適温適湿になってるから、凄い目覚めが良いんだよね。
「おはようございます。お嬢様、今日のご予定は陽向様とお散歩ですが、お召し物はどうなさいますか?」
そっか今日は陽向とお散歩かぁ。動きやすい方が良いよね。
「忍者装束ってあったかしら?」
「えっ、有りますが……着るおつもりですか?」
「忍者装束って動きやすいもの。でもそのままだと可笑しいし、少しアレンジしようかと思って。」
「そういうことですか。分かりました。ただいま準備します。」
侍女が着物の裾から左手を出し三回ほど召喚の言葉を唱えると、ふわっとした風と共に服が転送されてきた。西園寺家の使用人って全員能力持ちっぽい?
紺色の忍者装束を、純白を基調にして、少し飾り付けした衣装に変えて。忍者特有の、ズボンのボコッとしたのを、袴に変えようかな?うん、良い感じに仕上がった!今は暦だと春だし薄めの羽織も付けようかな?
朝食を食べたら、仕上げに、長い銀色の髪の毛を巫女さんみたいに結ってもらおう。
さすがに、悪役令嬢の縦巻きロールにしようとは思えないしな。
「お似合いです!素晴らしいセンスをお持ちです、流石お嬢様。」
「有難う。じゃあそろそろ朝食でもいただきます。」
「では、ご用意は出来ていますので、一階の食堂か居間でお待ち頂ければ、食堂侍女が食事をお運び致します。」
「あっ陽向君は起きてる?」
「ええ、起きておりますが?」
「なら、一緒に食べると食堂侍女に言っておいてくれる?」
「御意。陽向様は下でお待ちになさってる筈です。」
今日はなんだろう?朝食だし、さっぱり系が良いな。
薄々気付いてはいたけど此の家の広さって尋常じゃないよな。凜の記憶があるから少し危ういけど迷わないものの、初めてきた陽向なんかは迷っちゃうよね。
凜の記憶でさえ行っていない部屋が数十部屋以上はあると認識しているから、本当に恐ろしいわ名家。他の四代陰陽師家もこんな広さだというなら、私は確実に迷う自信がある。
やっと着いたぜダイニングルーム、子供部屋から食堂まで徒歩五分って凄くない?
確かに子供の足だし、ゆっくりではあったけどさ、やっぱ此の家の広さは末恐ろしいな。
「おはよう陽向君。」
「おはよう、凜ちゃん。」
二三言交わしていると、間もなく食事が運ばれてきた。温かい味噌汁に良い匂いの焼き魚が食欲をそそる。その他にも多くの副菜が並んでいて、前世数多くあった趣味のうちの一つ"料理"が今世でも楽しめそうだと嬉しくなる。
料理人さんに迷惑じゃなかったら、教えてもらおうかな。
「いただきます。」
「ねね、陽向君って好きなものはある?」
「好きなもの?うーん本かなぁ。でも、どうして?」
「今日は家の案内するけど、この家広いからさ陽向君の好きなものから紹介していこうと思って。」
「本当に?ありがとう!広い部屋で本を読むの夢だったんだ。」
西園寺家って和洋折衷なんだよね。本邸がH型になっていて、門からみて右側が常活棟(主に衣食に関係する部屋が多い)、左側が特別棟(書斎や遊技場・温室など)があり真ん中は渡り廊下と客室になっているんだよね。三階建てで一階の真ん中は玄関だけど。他にも離れが幾つか存在するっていう名家っぷり。
「じゃあ、今日は特別棟を案内するね。きっと常活棟はそのうち覚えられるよ、簡単な造りだし。」
「あははっ。意外と大雑把なんだね、凜ちゃんって。」
「もうっ。そんなこと無いよ。」
そうして、私は陽向を特別棟に案内し幾つかの部屋をめぐった。特に、書斎や図書室に興味を示したようで、長い時間をそこで過ごした。図書室は三階を吹き抜けにした形になっていて凄く広い。
図書室なんて前世の私が通っていた市立図書館と同等、いや以上かも知れないぐらいの蔵書数だった。幅広い分野の本を見て私も陽向も、目を輝かせていたとお茶を運びに来た侍女が、微笑みながら報告してくれた。
「ねぇ、陽向君階段を登って上階に行かない?」
「うん、そうしてみようか。」
三階の天井から降り注ぐ淡い太陽光に誘われるようにして、螺旋状の階段を登っていく、階段の手摺には美しい白虎の彫りが彫られていてとても綺麗だった。その彫りから若干量の妖気を感じたから、きっと妖力が練り込まれているのだろう。
きっと、手摺の間から落ちそうになっても妖力が引っ張ってくれる造りなのかな。
三階につくと私たちは足を止めた。
「まぁなにこれ!」
「プレゼントボックス……?」
近寄ってみると、弱い魔力波を感じた。封印魔法を弱体化させてかけた感じの。
んー造りはきっと、かけられた魔法の上からそれ以上の魔力をのせると、魔法は消える。って具合かな。まぁ魔法がキャパオーバーを起こすイメージ。だから、ちょっとしたサプライズなんかに丁度良い。って、私の記憶が語ってる。
確かヒトメグのイベントでも、そんな風に魔法を使って工夫を凝らしたものがあったからね。まあ、そのイベントは薄暗いホラーイベントだったけど。しかもドキドキ死人が出るよ⭐っていうガチホラーの。
「じゃあ、開けてみる?プレゼントなんだし。」
「そうだね。開けてみようか。」
そういうと、陽向はプレゼントボックスに触れ、静かに息を吐いた。
えっ、陽向って魔力の使い方知ってるの?まじか、下手したら私より進んでるんじゃないか。
陽向がゆっくりと流し込むと、薄いガラスの球体を割ったような音が響いて、プレゼントボックスは開いた。