3話 ~おはようございます~
なんだか、部屋の外が騒がしいけどどうしたんだろ?
幾つかの足音が交差してるせいか、声は聞き取れないけど、焦ってるみたいだし事件でも起きたのかな?
あ、こっちに足音が向かってきてる。
コンコン。
「凜お嬢様、失礼いたします。氷枕の魔力補給に参りました。」
そういって入ってきた侍女(上の着物は白で下に黒い袴を着用した、そことなくクラシックメイドのような雰囲気)は、私がベッドの上に座っているのを見ると、駆け寄ってきた。
「凜お嬢様!お目覚めになられたのですか!?」
うーん、こういう時って何て言うのが良いのかな。凜お嬢様が目覚めたというより、私が目覚めちゃったんだけど。
「うん、おはよう。今、目が覚めたばかりよ。」
「少々御待ちください、御館様と奥様をお呼びして参ります。医者も共に参りますので安静にしていて下さいませ。」
そういうと侍女は袴を翻して、部屋を出ていってしまった。
折角人が来たと思ったら、また独りか。寂しいな。やっば、お嬢様とかってこういうもんなのか?
そうして、ベッドのやけに豪華な天蓋を見詰めたり、服のやけに綺麗な裾のフリルを弄ったりして待っていると、幾つかの慌ただしい足音が聞こえてきた。
ガチャリ
「凜?目が覚めたというのは本当?」
「どこか痛いところは無いかい?」
慌ただしい足音の正体は、眉目の良い人たちだった。
銀髪をサイドに緩くまとめた美しい女性と、肩に少しかかる位のミディアムヘアーの眉目秀麗な男性が不安そうな顔をしている。
そう、西園寺家当主夫妻なる人たちが此方を見ていた。
「おはようございます。お父様、お母様。」
取り敢えず、おはようでいいかな?あまり記憶がはっきりしていないけど。
それに、言われて気付いたわ。なんか熱っぽい。
「お嬢様、ご機嫌は如何ですかな?三日間も寝ていた上に、今朝の熱は三十七・七度ほどありましたが、理由がはっきり分かっておりませぬ故、御無理は為さらずに。」
あぁー、まぁそうだよね。前世の記憶が脳の形容範囲を越したから、寝込んで熱が出るなんて、普通の医者は考えないもんなー。
「もう大丈夫。ちょっと暑いけど、痛いところは無いもの。」
と私が言うと、みんな安心したようで、部屋に集まっていた使用人たちは、私を気遣う声をかけて持ち場へと戻っていった。
心配かけてたみたいで、なんだか申し訳無い気分だ。
そうして人が捌けていくなかで、両親が私の元へ寄ってきた。
「神譲渡の年の御祝いで倒れてしまったのは覚えてる?貴方への贈り物を渡そうと思ったら、倒れてて驚いたのよ。でも、目が覚めてくれて良かったわ。」
「そうそう、あの時はみな驚いて、てんやわんやしてたからなぁ。本当に良かった。」
そういって、私は抱き締められた。おぉう、母ちゃんデカイな。当たってるぜ(何がとは言わないけど)。
ん?そう言えば贈り物?あの山のように積んであった祝いの品以外にもあるの?!流石に名家は違うなー。前世とは大違いだぜ。
しかも当主夫妻からなんて、いったい何だろう?
「贈り物?あれら以外にもあったの?」
「えぇ、貴方はもう七歳でしょう?神譲渡の年を越えた、西園寺家の娘になったのだからね、貴方付きの侍従をつけようと思って。」
ん?侍従ってもしかして……?
「ひぇっ!じ、侍従ですか?」
「私はまだいい、と言ったのだけれど、母さんがきかなくてね。」
「そうね、遊び友達のようなものよ。今はまだ安静にしなきゃ、治るものも治らなくなってしまうから、そうね一週間後にしましょうか。」
どっどど、どうしよう。七歳で侍従になる陽向が来るのいつごろかな~?とは思ってたけど、まさかこんなにすぐなんて!
まっまずは、落ち着かないと。ひっひーふーひっひーふー……ってもう!ラマーズ呼吸法してどうするっ!産めないっつーの。
「そうだわ、贈り物って言えば、もうひとつあるわ。琥珀が来月に留学先の西国から帰ってくるみたいよ。」
ええぇ琥珀って西園寺琥珀のこと!?
確か西園寺琥珀のトラウマって十歳の時留学先から帰ってくる際に、盗賊に遭って付き人を無惨に殺された上、誘拐されたこと、だったはず。
陽向の方はまだ、私が罵詈雑言を浴びせないことでトラウマ回避が出来る気がするんだけど……。
琥珀お兄様の方は、相手が盗賊だから私がいきなりどうこうする事が出来ないし、どうしたらいいんだろう?
「どうした、凜?黙り込んで。」
「うっううん、大丈夫だよ?」
「あら、もしかして琥珀が帰ってくるのが楽しみでドキドキしてるの?」
「ははっ、そう言うことか!確かに琥珀は七歳の頃から留学修行を始めて、それからたまにしか帰ってこないからなぁ。」
留学修行?そっか!私も修行すればいいんじゃない?
凜はヒトメグ内で才女って言われて、並大抵の事は簡単にこなしていたし。……まぁそれが原因で、いきなり現れた主人公がちやほやされてるのが許せなくて、悪役に拍車がかかるんだけどね。
「ねぇ、私も修行したい!"さいおんじけのむすめ"だもん、もっとお父様やお母様みたいに、強くなりたいわ!」
両親相手ならこんな感じでいいかな?
って、んん?二人共静かに震えてるけど、もしかして怒らせちゃった?逆効果だったのか?
なんて思ったらのも束の間。二人はまた私を抱き締めると嬉しそうな声で言った。
「なんて良い子なの!私嬉しいわ。嬉しすぎて泣いてしまいそう。」
「分かった、凜。なら、父さんの知り合いに頼んでみよう。きっと良い先生として凜を導いてくれる筈だ。」
よっしゃ、頑張ろう!てか、こんなにチョロくていいのか?あの高難度の琥珀お兄様の両親だとは思えないぜ。
まぁお父様の紹介の人なら良い先生だろうし、修行も楽しみだ。
「ああ、それに、"西園寺家の娘"なら強くなる為の修行じゃなくて、淑女になる為の修行もしましょうね。」
「……程々にしておくんだぞ。」
何だろう、淑女の為の修行も嫌じゃないはずなのに、寒気がする。
お母様の笑顔が眩しいです。