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最北の島

作者が趣味と欲望の赴くままに書き進める作品になります、閲覧は自己責任でお願い致します。

1940年3月20日ドイツ北部ズュルト島ヴェスターラント航空基地


1939年9月1日に実施されたドイツ第三帝国によるポーランド侵攻作戦ファル・ヴァイスを契機として勃発した第二次世界大戦、しかしながらドイツに宣戦布告した筈の大英帝国ならびにフランス共和国の両国は大戦勃発から約半年が経過している筈のこの時期においても積極的な動きを見せず、両国とドイツは独仏国境間に築いた要塞線、マジノ線とジークフリート線を挟んでにらみ合いを続けていた。

余りに長期に渡る為にインチキ戦争ファニー・ウォーと呼ばれるにらみ合いを続けるドイツ第三帝国の北部、北欧の小国デンマークとの国境が存在するユトランド半島の洋上に存在するドイツ最北の島ズュルト島にはドイツ空軍ルフトヴァッフェの航空基地、ヴェスターラント航空基地が存在しており同基地には第30爆撃航空団(KG30)が駐留していた。

基地の周囲は初春の黄昏時を迎えており、暗さを増す基地の駐機スペースには訓練を終えた所属機群が翼を休めていた。

さながらダイヤモンドを彷彿とさせる多角形の形状に形成された機首ガラスと機首下面右寄りに設置されたゴンドラが印象的な新型双発爆撃機、ユンカースJu―88A―1は黄昏の陽射しに彩られながら翼を休めていたが、その中に列線を形成する他のJu―88A―1とは些か雰囲気を持った機体が駐機していた。

その機体は他のJu―88A―1同様環状ラジエターをナセルに組み込んだユンカースJumo―211B液令エンジン(1200PS)を搭載していたがその機首は他のJu―88A―1の多角形ガラスでは無くのっぺりとしたソリッドノーズであり、その機首には三ヵ所の孔が穿たれていた。

Ju―88A―1を基に開発された駆逐機(重戦闘機)Ju―88C―2、開発されたばかりの同機は実戦テストを行う実験部隊として第30爆撃航空団に9機が配属され、配属された同機でもって第30爆撃航空団駆逐機中隊(Z./KG30)が編成されて駆逐機部隊として訓練に励んでいた。

訓練を終えて翼を休める9機のJu―88C―2、その内の1機の前にパイロットスーツに身を包んだ二人の美女が佇んでいた。

急速戦備拡張計画の為に試験的に採用される事となった女性パイロットの第一陣として今年の1月に実戦配備についたエリーゼ・クノッケンドルフ少尉とハンナ・シューベルト少尉、駆逐機パイロットを志願していた二人は2月に新編されたばかりの同中隊に配属されて新鋭機の扱いに励んでいるのだ。

「……だいぶ、馴れてきた、かな?」

「……なんて思った時が一番危ないよ、ハンナ」

「フフフ、そうだね」

ハンナの呟きを耳にしたエリーゼが穏やかな笑みを浮かべながら言葉をかけると、ハンナは小さく舌を出して笑いつつ応じ、エリーゼはその様子を穏やかな笑みを浮かべて見詰めながら言葉を重ねた。

「……まっ、ハンナと一緒だから大丈夫だとはあたしも思ってるけどね」

「……っもう、エリーゼったら」

エリーゼの言葉を聞いたハンナははにかんだ笑みと共に応じ、その様子を目にしたエリーゼが穏やかな笑みを浮かべていると二人の後方にパイロットスーツに身を包んだ美女、二人と共にJu―88C―2に搭乗するライーザ・シュタインベルト少尉が近付いて声をかけてきた。

「ねえ、二人とも、そろそろ食事に行きましょうよ」

「あっそうだね、行こう行こう」

ライーザの言葉を受けたハンナは弾んだ声をあげ、それを耳にしたエリーゼは穏やかな笑みと共に頷きながら口を開いた。

「それじゃあ行きましょう、ハンナ、ライーザ」

エリーゼはそう言うと視線を駐機するJu―88C―2に向け、それを目にしたハンナとライーザも同じ様に視線をJu―88C―2へと向けた。

「……いずれ飛ぶ日が来るのよね」

エリーゼはJu―88C―2を見詰めながらポツリと呟き、それを聞いたハンナはゆっくりと頷きながら口を開いた。

「大丈夫だよ、この機体と一緒ならやれるよ」

「……そう言う事、この機体は素晴らしい機体だし、あたし達もみっちりとこの機体の事を訓練してる、絶対に大丈夫よ」

ハンナに続いてライーザもしっかりとした口調で応じ、それから三人は静かに自分達の命を預ける事になる愛機を見詰めた。

初春の黄昏の陽射しの中で佇む三人のうら若き乙女達、Ju―88C―2は彼女達の視線と黄昏の陽射しを浴びながら静かに翼を休めていた。


彼女達が新鋭機の訓練に明け暮れている頃、ドイツ第三帝国は新たな攻勢作戦を胎動させつつあった。

攻略目標はデンマーク王国及びノルウェー王国、中立国スウェーデンからの鉄鉱石輸送路と北方海域方面の拠点の確保を目的としたこの作戦は陸、海、空の三軍が密接に協力して行う本格的な渡洋作戦であり特にドイツ海軍クリーグスマリーネは総力を結集して本作戦に参加を計画していた。

長期に渡るにらみ合いの末に実施する新たな作戦、ドイツは本作戦にヴェーゼル渡河演習ヴェザー・ユーブンクの作戦名を与え、同作戦参加部隊の中には第30爆撃航空団の名も存在していた。


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