完璧少女
その少女の人形のような端正な顔立ちに、道行く誰もが振り返った。
その少女の透き通るような声に、声聞く人皆聞き惚れた。
まさに完璧な少女、それが『里美』だった。
16歳の里美。何1つ欠点が見つけられない。
強いて1つ欠点をあげるとすれば、それは『完璧』ということだった。
『里美、この前言っておいたこと、やってくれた?』
『もちろんです。お母様...』
『そう、それなら良いわ。早く部屋に戻りなさい。』
『はい。お母様...』
『里美、昨日約束したこと、やったのか?』
『もちろんです。お父様...』
『そうか、それなら良い。早く部屋に戻りなさい。』
『はい。お父様...』
彼女は何をするにも妥協を許さない。
そんな彼女には、とても大切にしている白い猫がいた。
その猫が数日前より体調を崩し、ほとんど動けない状態になっていた。
『ルナ...元気がないね。明日お医者さんに行こうね。』
獣医師からは、白猫「ルナ」は余命1か月と伝えられた。
『ルナ。あと1か月で死んじゃうんだ...』
里美は目を瞑っているルナを、華奢な腕でやさしく抱いたまま、机の上のカレンダーを1枚捲った。
そして6月30日の欄に、小さく 『死』 と書き込んだ。
その6月30日がやってきた。
ルナは回復してはいないものの、かろうじて息をしていた。
『あれ...6月30日になったのにルナまだ生きてるんだ...
私ね、一度決めた約束事は、破るわけにはいかないんだ...』
少女の白い手が、白い猫の首にふんわりと巻き付いた。
人形のような少女は手にゆっくりと力を入れ、透き通るような声で呟いた。
『バイバイ.. ふふふ...』
- 終わり -




