第四幕 冷
暗い暗い夜道だった。
それは細く、しかし真っ直ぐと伸びて、だが行く先は朦朧としている。
女はその道を歩こうとしていた。
闇が足元に纏わりつく。
闇が腿へと這い縒ってくる。
闇は腹部を包んでいく。
闇は伸びて、背を覆い、首をくるむ。
やがて頭部へと伸びた闇は後頭部を撫で、額を摩り、頬を挟む。
闇は冷たかった。
ひんやりと女の身体に纏わりつき、熱を奪っていく。
しかし熱を奪われる感覚が女にはひどく心地よく、むしろ甘美なほどだった。
冷たく、そして身体はどんどんと気だるくなっていくが、だがその気だるさの内に安寧のような居心地の良さを女は感じていた。
ずぶずぶと身が沈んでいく。
闇は深くなる。
闇は濃くなる。
闇が侵食する。
もしやすると身は沈んでいるのではなく、内に入り込んでいるのかもしれない。
身と闇の境界があやふやとなる。
肉、心、そして闇――
これらが完全に一体になろうとする。
溶ける――流れる――零れ落ちる――
境が消えていく。
女は恐怖した。
未だ身はぬるま湯のような心地よさを味わいながら、しかし心は救いを求めた。
(助けて、救けて……嫌だ。嫌……)
少し、闇が遠のいた――