第一幕 女
女が歩いていた。
それは遮るものが何一つない、野のような所で、あるのはただ青々とした草だけ。
茶色い乾いた土が剥き出しなだけの、簡素な細い路――ここは都会とは違い、道とそうでないものの境界は曖昧だ。
何となくそれとなく路らしく見えるだとか、草の密集度が低いだとか、そういった個々人の主観によって、ここでは路とそうでないものの区別がつけられる。
いや、元々本来ここには路なんていう、人工物は存在していないのかもしれない。
ここにやって来たものが己の歩き易い所を、勝手に路と思って歩いているだけかもしれないのだから……
女は歩く。
女の手にはトランクケース、それは腰ほどの高さもある大きなもので、中には女の全てが入っている。つまり女にとってそれはひどく、大事なもの。
女は苦労しながら、トランクを曳く。
路は少しも舗装などされてないので幾度も幾度もトランクは剥き出しの石でつんのめり、または窪地に嵌ったりして、女を煩わせる。しかしそれでも女は懸命にトランクを曳き、歩いていく。
ふと女は空を見上げる。
青い空、染み一つない、綺麗な青空。
女の足はいつの間にか止まっていて、だが暫くするとまた、女は歩き出した。