通常枠にとらわれない考え方
さあて、今日もお話の時間だ。……なに? 退屈だ? まあ仕様がない。これを無くすわけにはいかないんだからさ。
それでも、きみの気持ちは理解できるかな。痛いほど。……うん? 『痛い』ってなんで? だって?
気にするなよ、言葉の綾さ。そう上手くもないけどね。
さて。じゃあ、こうしよう。きみの気持ちがわかる、親切心溢れるぼくからの、出血大サービスだ。
文字通りの意味で。……だから気にする必要ないってば。律儀だなあ。そういう生き方って疲れないかい? 別に? あっそ。
今日はちょっと趣向を変えた話をしよう。……うん? 別にいいって? 別に別にってきみの口癖かい? いけないな。それにきみに拒否権はないよ。
嘘だけど。でも、まあたまにはぼくにも好き勝手話させて欲しいな。……いつもだろって? その通り。けど、今日のはちょっと違うんだ。きみにも関係ある話かもよ?
まあ、まったく関係ないかも知れないけどね。それならそれで……だからきみって律儀だなあ。ツッコミはほどほどにしようか。関係なくても聞いてみろって。
じゃあ、話し始めよう。ご静聴ください。……静かにし……おおっと? きみ、今何も言ってないね? 聞こえるかい? この声が……。
なんて冗談だって。びくびくするなよ面白いなあ。
睨むな睨むな。恐くないから。
気を取り直して。では話そう。首をもがれた子供の話だ……。
その子供は、言ってはなんだが”異常“だった。
と言っても、別段目に見えて異常だったわけではない。
普通に遊び。普通に笑い。普通に恋をした。どこにでもいそうな子供だった。
けれど、その”普通さ“が”異常“だった。
その子供は、テストでは常に平均点を取り、身長体重も平均。運動能力も平均だった。
これだけでは、普通の普通でしかないけれど。
じゃあ、全国平均と、校内平均と、クラス平均が、すべて”同じ“だったとするならば。
これは、異常だ。なにがって、全てが。
子供のやることなすこと、全てが平均的。 恋も勉強も笑いも何もかも。
なぜそんなことが起きたかは、わからない。
わかりたくないっていうのが本音なのかも知れないけど。
ともあれ、子供は首をもがれた。
なぜって……なぜだろうね?
わからないよ。ぼくには。
わかりたくない……ってわけじゃないよ。
わからないのさ。それを考えるのが、ぼくの宿題。
ははっ。きみは本当に面白いなあ。『大人なのに宿題があるの』って。
あるよ。だってぼく、大人じゃないし。
……体が大きいのは、別に大人じゃなくてもいいだろ。バカかきみは。
ううーん。体が伸び始めたのは、そういえば首をもがれたあとからだなあ……うん?
どうしたんだい。顔色が悪いけど。……うん? あれれ。言ってなかったっけ。
ぼくはとっくに死んでるよ。もちろん、きみもね。
ははは。気づいて無かったんだ。間抜けだなあ。実にきみらしい。
まあ語れるほどきみのことを知ってるわけじゃないんだけど。
関係あったみたいだね、この話。
きみ、どうやって死んだか覚えてる? 覚えてないなら教えてあげよう……。
うん? なんでお前が知ってるかって? 理由にはならないけど、まあうん。
きみも、もがれたんだよ。きみの場合は、両足だけど。
さあ……多分同一犯なんじゃないかな?
知らないよ。ぼくはとっくに死んでたんだから。
え? ぼくらは幽霊なのかって?
そうなんじゃないかな? ここ、廃校処分にあった小学校だし。
つまり、ぼくの通ってた学校だよ……うん? 『わたしの学校』……? ああ、そうかそうか。きみ、あの子かあ。そうだったんだ。へえ。見違えたよ。大きくなったね。
知ってた? ぼく、きみのこと好きだったんだよ。……知らないか。まあ、今言ったんだけどね。
だから睨まないでよ。笑った顔の方がぼくは好きだよ。
ちぇ、つれないなあ。
……そういえば気になってたんだけど、ぼく、なんでこんなことしてるんだろうね。
こんなことって、だからきみとお話ししたりさ。うん? 知ってるの?
『天国に行くための準備』、ね。なるほど、ロマンチックだね。きみらしい。
え? 褒め言葉だよ? なかなか女の子らしくていいセリフじゃないか。
あはは。照れた照れた? さっきは冗談だったけど、やっぱりきみのこと好きなのかな、ぼくは。
まあ、これは希望だけどね。あーあ。普通に恋くらいさせろっての、神様よー。
さっきまでの戯れ言は全部一旦置いておこう。
うん。まあ実は全部知ってるんだけどね? 犯人とか。
それはつまりきみなんだけど。ちなんで言っておくと、きみの両足をやったのはぼくのお父さんだ。
お父さんはぼくのことが大好きだったからなあ。運が悪かったね。
ああ、お父さん? 生きてるよ? ……なんで自殺なんてする必要があるんだよ。きみが悪いのに。
で。聞いておきたいんだけど。
なんでぼくの首をもいだんだい?
うん? 『ぼくのことが好きだから首が欲しかった』? はは。やったー。相思相愛だね。
けれどやっぱりいかれてるなあ。ぼくたちらしい。
ぼくたちは果たして天国に行けるのかな?
『あなたと一緒なら、ここでも天国よ』……嬉しいことを言ってくれる。
まあ、そこらへんの話は、追い追い……
プツッ
この物語はフィクションです。