第一話
俺が、お前にこの気持ちを伝えられたら、どれほど楽なんだろう。どれほど幸せなんだろう
どれほど……お前を傷つけるのだろう
―☆―
―放課後―
教室でそれぞれの生徒が帰ろうとざわめいている中、輒木は一人カバンに教科書等の荷物を入れ、帰りの用意をしていた
そんな輒木の回りには誰も近づかず、一番近いものでも三メートルは離れていた
"まるで動物園の檻の中の危険動物だな"
輒木はそう思いながら、ため息をついた。その表情は悲しい、というよりも、寂しそうに見えた。しかし、そんな輒木に駆け寄ってくる男子がいた
「真人ー!一緒に帰ろうっぜ!」
そう言って、男子は輒木の肩を叩く。輒木は先程とは違って、安心したような笑顔を見せた
「ああ、今日はどこかに寄っていくのか?」
「ああー、悪いけど。今日は妹の面倒見てやらなくちゃいけないからさ。今日はそのまま直行」
そういう岡田に。そっか。と輒木は少し悲しく微笑む。先程のことで分かる通り、輒木はその容姿が故に誰も近寄ってこない。彼らには輒木がガラス細工、それもとびっきり美しくて、脆いものに見えたのだ
だから、壊さぬよう、触れぬようにそばに寄らず。ただただ、遠くから眺めているだけ。それだけだ
それは輒木も理解している。そして岡田も。だが、岡田はそれを気にしなかった。だからこそ、今の輒木がいて、今の関係があるのだろう。
だからこそ、許せないのだ
先程から三、四人で固まって、岡田を醜い嫉妬の目で見ながらこそこそと陰口をたたいている、クラスメイトが。鋭い目付きで睨もうとしたその時、岡田が輒木の肩に手を置いた
「いいっていいって、気にすんなよ」
「健治…」
「あんな人と話す度胸もない奴らほっとけよ。俺には友達もちゃんといるし、お前もいるしな。それでいいんだよ」
そう言う岡田の表情は満面の笑みだった。それを見て、輒木もつられて笑ってしまう
「……そうだな、んじゃあ、帰るか」
「おう」
そう言って二人は、仲良く会話をしながら教室を出た
―☆―
「ただいま」
ガチャと広い家に扉が開く音が木霊する。そしてそのあとに鳴る閉まる音も、誰もいない家に木霊した
リビングの扉を開け、中に入る。家族とゆっくりするための広めの机に、小さな紙切れを見つける。輒木はそれに手を伸ばし、自分の目の前に読むために持ち上げた
『真人へ―今日も遅くなるわ。ご飯はレンジの中に入れてあるから、暖めて食べてね。早く寝るのよ?―母より』
紙切れには、そう書いてあった。レンジの中を確かめる、中にはオムライスが一皿置いてあった。オムライスには器用にもケチャップで『真人』と書かれていた。思わず、笑みがこぼれる。それを一度レンジに戻し、輒木は自室へと向かった
「ふぅ……」
自室に入った輒木はまず少し疲れを癒すため、ベッドに寝転がる。何もせずに、ただじっと天井を見つめる
………数十分たった頃だろうか、輒木は起き上がり、鏡の前で制服を脱ぎ始める
学ランとカッターシャツを脱いで、輒木は自分が写った鏡の一部分を忌々しそうに見つめる
鏡には、男にはないはずの膨らみがあった。そう、輒木の秘密、それは『自分が女性であること』だ
「健治……」
そして輒木は、ある感情を抱えていた
それは恋、彼女は親友である岡田健治に恋心を抱いているのだ
「……今日も、渡せなかったな」
そう言って輒木はカバンから取り出した布で包まれた弁当箱を見つめる。これは輒木が朝早く起き、岡田のために作った弁当だ。あとは渡すだけ、なのだが。輒木はこう思ってしまったのだ
『もしかしたら、気持ち悪がられるんじゃないだろうか』
そう思うと、渡せなくなったのだ。結局、弁当は渡せず、今輒木の手にあるということだ
「……後で捨てよう」
そう言って、輒木は服を着るためにクローゼットの方を向いた。その時
「勿体ねぇな。こんなに旨いのによ」
バッ!と輒木は後ろを振り返る。そこには輒木のベッドの上であぐらをかきながら弁当箱の蓋を開け、中身をムシャムシャと食っている成人の男がいた
「なっ!? てめっ、どこから入りやがった!? 警察呼ぶぞ!」
「ふぅ……ごちそうさま」
「あ、お粗末様。じゃない!!」
「まぁそう騒ぐなって、今から話してやるからよ」
よいしょっと。そんな声を出しながら男は立ち上がり、近くにある椅子に座った。男の容姿はまさにイケメンで、身長も高く、体型も理想的なものだった。髪は黒く、短く切り揃えられていた。輒木は思わず見惚れるが、岡田のことを思いだし、首を左右へと激しくふった
「さて、早速だが本題に入らせてもらうぜ?輒木真人ちゃん」
「! なんで…俺の名前…」
「知っているさ。男装をしている理由から、お前が誰に恋をしているかまでな」
嘘だろ……と輒木は思った。だが、先程この男は自分の名前を言い当てた。もしかしたら。なんてことを考えてしまう。しかし考え直し。いや、ありえない。そんなファンタジーのようなことが存在するはずがない
「疑ってるな?」
ゾクッと輒木の背中に悪感が走った。まるで、心の中を見透かされているような感覚がする。こいつには、隠し事が通用しないんじゃないかってぐらいに
「まぁ仕方ない。とりあえず、本題に入らせてもらうぜ」
男は立ち上がり、窓を開ける。既に外は暗く、流れてくる風が冷たかった。それが、余計に悪感を加速させる。男はこちらを振り向いて、言い放った
「俺は、『願いを叶える悪魔』だ」
「……………はぁ?」
輒木は突然言い放たれた言葉に思考がフリーズし、そんなすっとんきょうの声しか出せなかった。しかし、男はそれを知ってかは分からないが、続けて言い放った
「お前の恋が成就するように、俺が手伝ってやる。その代わり、俺に人間らしさを教えろ」
そう言って、悪魔は口を引き裂き、笑ったのであった
今回の反省
文 章 力 が な い
構 想 力 が な い