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「泥棒を、泥棒って言って、何が悪いっていうんだよ!」

 リーダーが言うと、もう一人の子も「そうだ、そうだ!」と怒鳴った。

「被害者は、俺なのに、なんで俺が怒られんの? 冗談じゃないよ!」

 リーダーが言う。


 そのあと、スイッチが入ったように、リーダーは、学校に持ってきたゲーム機が盗まれた話をしだした。

 誰もその子が盗んだところは見てないが、絶対に犯人はあいつしかいない、というのがリーダーの主張だ。

 そして、その主張に、他の二人も賛成していた。

 その子とリーダーは、集団下校の班も同じで、いつも喧嘩をしているという話だから、ミチカが怪我をしたのも、この子たちの巻き添えを食ってのことだったのだろう。


 だから、その子とリーダーは、昨日今日、揉めだした仲じゃないってこと。

 根が深そうだ。



 担任には、犯人はあいつなんだって、言った。

 でも、全然聞いてくれない。

 こっちがいくら言っても、ダメ。

 そんなこと言っちゃいけません、とか、推測だけで決めちゃダメですとか。

 なにそれ、って感じ。

 それに、そういったこと、よりによって、クラス全員の前で言うんだから、すっげームカつく。

 物を盗られたのは俺なのに、俺が悪者かよっ。

 プライドが傷つけられた。

 被害者、俺なのに、なんで?

 なんで、こんな目に合うの?

 頭にきたんで、帰ってからそのことを親にちくったら、逆ギレされた。

 学校にそんなものを持って行くな! とか、持っていくから盗られるんだ! だって。

 はぁ? っな感じ。

 それおかしくね?

 持っていくのと、盗るのが、同じレベルで悪いってこと?

 もう、やってられないよ。

 おまけに、買ってあげたものをなくすなんてとか言われて、お小遣い二カ月分なしになったし。

 なんなんだよ、それ。

 ムカつく。

 俺は、間違っていない。

 犯人は、あいつなんだ。  

 だから、先生には謝ってほしいし。

 土下座してほしい。

 それに、あいつを逮捕してほしい。



 リーダーの言葉に、二人の男の子たちもまるで自分のことのように、同調していた。

 私も双葉も、一言も聞きもしないのに、三人はずっとそのことをしゃべり続けた。

 三人が落ち着いたところで、「その子が盗るところを、見たわけじゃないんだよね?」と、双葉が聞いた。

「見てないけど、絶対そう」

 三人からは、そう返って来た。

「ふーん。なんでそうなの?」

「だって、あいつ見たら、おっさんだって、絶対そう思うから」

 リーダーは、いじわるな笑みを浮かべた。


 いつもぼろい服着て、持ち物もぼろで。


 そうだよな、とリーダーが言うと、他の子も頷いた。


 その子たちの話を聞きながら、私は紙芝居が池に捨てられた時のことを、思い出していた。


 私だって、葛原さんが犯人だって、口にこそ出さないけど、そう思った。

「見てないけど、絶対そう」

 だから、その気持ちはわかる。


 一方、その子たちの言っていることが、滅茶苦茶だってことも、わかる。

 滅茶苦茶だとわかっていながらも、ここを主張し続けることが、必ずしも悪いってことじゃないってことも、わかっている。


 紙芝居の事を、私もそして伍代君も、保健の先生にも担当の山中先生にも、伝えようとはしなかった。

 伍代君の気持ちがどうだったかは知らないけれど、私の経験として、学校でのこういった騒ぎは、先生に伝えたところで、解決しないってわかっていたからだ。


 小学生のころから、クラスの子の上履きや下敷きが消えることは、あった。


 ―― 学校は、犯人探しはしない。


 それは、中学のときに友だちが電子辞書を無くした時に、先生から言われた言葉だ。

 

 ―― 学校は、警察じゃない。

 

 わかるような、わからない説明だった。


 つまり、私達にできることは、貴重品の管理を自分で徹底することしかないのだ。

 予防はできても、おきた時はもう諦めるしかないと、その時、悟ったのだ。


 まして、紙芝居は、貴重品でもなかった。

 そうなったとき、はなから先生に伝えるなんて発想はなかったのだ。


 上履きも、電子辞書も、そしてゲーム機も。

 一人で歩いて、どこかに行ったわけでは無い。

 誰かの、何かしらの気持ちが、そこには動いているのだ。



 その時、ドンドンドンと図書室の扉を叩く音が聞こえた。


 私達を、ここまで案内してくれた、ベテランの先生だ。

「アサヒくんたち」

 リーダーが反応する。

「木村先生ね、クラスの山岸君に付き添って、病院に行ったのよ」

 すると、リーダーが「ちっ。ここでも、山岸」と言った。

「山岸君の入院している妹さんね、知っているでしょ。あの子の具合が悪くなってね。だから木村先生先生が、病院まで連れて行ったのよ」

 そんなわけで、先生はまだ来られないのよ。

 それにね、すぐに病院に行ったから、アサヒくんたちのお手紙、読んでないのよ、と。

 手紙じゃねーよ、とリーダーはつぶやいたあと、「先生、戻って来るんですか?」と聞いた。

 ベテラン先生は、頷いた。

「でもね、お話ならここでなくてもできるでしょ。ここから出てらっしゃい。先生と一緒に、木村先生を待ちましょう」

 リーダー以外の二人は、ベテラン先生の指示に従いたそうだった。

 けれど、リーダーはポケットに手を入れると、「木村先生以外とは、話さない。他の先生が来たら、これ食べるから」と、ピーナッツを取り出した。


 ベテラン先生は頷くと、「わかった。でも先生も木村先生が来るまでここに座っているから」気が変わったら、声をかけるのよ、と言って、私達に向い目礼をしてきた。



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