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「紙芝居は、終わりだ」
リーダーは、ずんずんと子どもたちの前にやって来るとそう言った。
「おばさん、みんなに帰るように言って」
つまり、拘束は終了?
子どもたちと先生の話し合いは、上手くいったってこと?
「みんな! 今日はこれでおしまいです。また、来るからね」
はいはい、おしまいだよ、と子どもたちを立たせる。
図書室の入口には、二人の男の子が立ち、ぎりぎりまで扉を開けないようにしてた。
「おばさんは、帰っちゃだめだから」
リーダーが言う。
「あのおっさんと、おばさんとおっさんの二人は人質って、そう決めたから」
つまり、まだ、これは続いているってことなんだ。
「そよちゃん」
ミチカが側に来て、「帰ろう」と服を引っ張る。
「ミチカ」
少しかがみ、ミチカと視線を合わせる。
「私は、お片づけをしなくちゃいけないから」
終わったら、すぐに帰るよ、と言うと、ミチカは少し安心した顔なり、友達と一緒に出口へと向かった。
「そこのおばさん」と、リーダーが葛原さんを指した。
「おばさんは、帰っていいから。そっちも三人で、こっちも三人だと、不利だからさ。それに、おばさんだって彼氏がつかまっていたら、変なことしないだろうし」
双葉は頷くと、葛原さんを立たせ、帰るように促した。
「扉、すぐ閉めるからな。早く出て行けよ」
少年たちは、扉を開ける前に全員に靴を履かせ、そして開けた扉からみなを追い出しはじめた。
そのとき、すっと私の側に双葉が来たと思ったら、私のエプロンのポケットの中に、意外なものを入れてきた。
バタンと扉が閉まる。
鍵をかける音が聞こえる。
残ったのは、少年三人と双葉と私の五人になった。
私と双葉は並んで座った。
その前に三人が、並んで立っている。
私達は、無言だった。
お互いに一言も話さなかった。
「おまえら、仲悪いのか」
リーダーが言う。
「うーん。仲が悪いっていうか、ねぇ」
双葉が、私を見てにこりとする。
どんな展開になるのさ。
でも、双葉はそれきり黙ってしまった。
するとリーダーが焦れたように、「続きを言えよ」と言う。
「あ、うん。ほら、ぼくには彼女がいただろ」
するとリーダーが、「あぁ、あのおばさんね」と言った。
彼女。
ほんとうに、双葉は葛原さんと付き合っているんだ。
双葉は、「人の彼女におばさんはないだろ」と言うと、リーダーはにやりと笑って、「おばさんは、おばさんじゃん」と言った。
これ、わざとだな。
双葉を煽るような。
いやな感じだなぁ、と思った。
「で、この子も、ぼくのことが好きで」
ん?
双葉がこっちを見ている。
わ、私か?
「あ、ふられたんだ」
リーダーが、私を見て笑う。
まぁ、あっちのおばさんのほうが美人だしねと、リーダーはずけずけと言ってきた。
余計なお世話だ。
むっとした私に向かってリーダーは、感じの悪い笑みを向けてくると、「正直に言っただけだろ」なんか文句あるかよ、と言ってきた。
文句はないけど、感じ悪いよ、あんた。
「へっ。大人って、変だよな。正直に言えっていうくいせに、正直に言うと怒ってさ。そんなこと言っちゃいけませんって」
そうだそうだ、と他の二人が騒ぎ出す。
なるほど、そこらへんか。
この子たちが、ひっかかっているところって。