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会場づくりをしていた時、突然大きな泣き声がした。
どうやら、子ども同士が喧嘩をして、一人の子が怪我をしたようだ。
先生が駆け寄る。
一人で大丈夫かなと思っていたら、四条君がその子に近づき先生と話すと、怪我をした子を抱っこした。
先生は、相手の子の手を引いた。
その子も少し、怪我をしているようだった。
「ちょっと、保健室に行って来る」
四条君の声に頷く。
「なんか、子どもって大変ね」
呆れたような声を、葛原さんが出した。
ふっと、空気が変わった気がした。
反射的に入り口を見ると、顔の下半分をバンダナで隠した男の子が一人、立っていた。
様子が変だ。
「締めたぞ」
その子の後ろにいた子が、プレハブの入り口の鍵を閉めた。
「こっちもOK」
さっきまで開いていた窓も全て閉められた。
「なに、なんかの遊び?」
葛原さんが、小さな声で私に聞いてきた。
「遊びじゃ、ないかも」
「それって――」
「おまえら、全員人質だからな!」
リーダーと思われる男の子が叫ぶ。
そして生意気にも、「おばさんたちの、携帯出しな」と、窓を閉めた子が紙袋を差し出してきた。
男の子たちは三人。
多分、五年生か六年生。
体格は私と同じか、大きい。
葛原さんは、背はあの子たちより高いけど、ただそれだけって感じだし。
「ね、ね、携帯出すわけ?」
葛原さんに、訊かれる。
そんな、私にだって、どうしていいかわからないよ。
「そよちゃん、あの子、ミチカのこと倒した子」
いつのまにか側に来ていたミチカが、小声でそう言う。
あぁ。
いつかの、集団下校。
「ねぇ、葛原さん、どうしたらいいの?」
「ちょっと、そこのおばさん! 黙って」
リーダーの子が葛原さんに向かい、鋭く言った。
「おばっ」
葛原さんは、そう言ったきり黙った。
彼女にも、これが普通のことじゃないってわかったんだろう。
私たちは大人しく、差し出された袋に携帯電話を入れた。
そして私は、体は動かさないままで、視線だけで図書室の中をぐるりとみた。
支度に気を取られていたので、ここに入ってきたときよりも、子どもの数が増えていたことに、今、気づいた。
子どもの中には、なにが起きたか気づかずに、床に広げた絵本を見たままの子もいた。
そして、その子の横には。
―― 双葉だ。
私の視線を感じたのか、双葉は顔を上げ、ウインクしてきた。
……あのねぇ。
私達の携帯を集めた子も、双葉に気がついたようで、携帯を出すように言っていた。
リーダーの子は、私と葛原さんに視線を定めると話しを始めた。
「ぼくたちは、担任から不当な扱いを受けている」
はきはきと話す姿や、言葉の選び方からして、賢いんだろうなってことと、これは計画的にやったことなんだということがわかった。
どうした、もんか。
「担任の机の上に、ぼくたちの声明文を置いてきた。担任がそれに従えば、みんなを解放する。しなければ、このまま拘束する」
声明文。
ってことは、要求があるってこと……。
「ねぇ、『こーそく』って、なに?」
リーダの側にいた子が聞いた。
「図書室に、いるってことだよ」と、リーダーが答えた。
その子は少し考えたあげく、「ふーん。ならいいや」と言った。
見たところ、リーダーもほかの二人も、凶器のようなものは持っていない。
私と、双葉と葛原さんで、押さえられるといえば、そうなのか。
「あと、もし変なことする人がいたら、ぼくはこれを食べるから」
リーダーはそう言うと、ピーナッツの入ったビニール袋を出した。