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「そよちゃん。そぉよちゃん。起きてよぉ」


 日曜の朝っぱらから、私のベットのそばに立つのは、白雪姫の王子様でもなければ、シンデレラの魔法使いでもない。


「……う。おはよ、ミチカ。あ、ほらミチカ。ハナ出てる。ふいて、ふいて」

 よろよろと体を起こしながら、そばにあったティッシュペーパーを一枚取り今年小学一年生になったいとこのミチカの鼻に当てる。

 ミチカが顔をしかめながらフンとハナをかむと、手にあったティッシュがとたんに湿り気を帯びた。

 部屋の隅にあるゴミ箱にそれをぽんと投げ捨てると、重い体をよいしょと起こした。


 完全に寝不足。あぁ、体が重い。頭も重い。


「そよちゃん、ほら。お話会だよ、お話会」

 ミチカは、体は起こしたもののベットの上に座ったままの私を、うんしょうんしょと引っ張りながらそう言った。小学生とはいえ、本気の力を出されるとさすがにやばい。


「起きるから、わかったから、引っ張らないの」

 その言葉に安心したのか、ミチカは私の手を離すとベットにちょこんと座った。

 ミチカは近所に住む母の妹の娘だ。彼女はいとこの中で最も私の物語に執着を示す子でもあった。

 母はミチカのことを、「そよのファン一号さん」と言う。 

 ……まぁ、悪い気はしないけどさ。


「ふふ。そよちゃん、今日から新しいお話でしょ。楽しみだね。みんなもそう言ってた」

 ミチカの言葉にハハハと笑いながらうーんと伸びした。

 そして、着ていたスウェットを脱ぐと、床に落ちていたシャツとジーンを身につけた。


 新しい物語。

 だから寝不足なんですよ。頭も体も重いんですよ。なんてことは、ミチカには言わないけどね。


「あれ、ミチカ、朝ご飯は食べてきたの?」

 そういえば今は何時なんだろうと部屋の時計に目をやると、八時を過ぎたところだった。

 間に合ったっていうか、ちょうどいい時間だ。

「うん、食べたよ。ミチカね、そよちゃんの分のおにぎりも持ってきたもん」

 そう言うとミチカは、小さなバスケットを私の目の前にぐいっと差し出してきた。

「おお! 愛い奴じゃのう」

 よしよしとミチカの頭をぐりぐり撫でると、ミチカは子ネコみたいに笑った。


 さてさて、急がねば。ミチカ以外にも、私の物語を待ってくれている子たちがいるのだ。


「じゃ、行きますかいな」

 ミチカの手をとり歩き出すと、弾むような足取りでミチカはついてきた。

「あ、そうだ。ごめん、歯だけ磨かせて」

 寝起きの口の中ってすっごく汚いんだってよ、と私がそう言うとミチカは腰に手をあて顔をしかめ「もう。早くしてよ」と偉そうに言った。






 ミチカと、まだ半分寝ぼけ眼の私とが外を歩き出すと、どこから見ていたんだろうかと思うほどの子どもたちが表に出てきた。

 子どもたちは帽子を被り、首からは水筒をぶら下げたり小さなリュックを背負っていた。


 うむむ。今日も今日とて気合が入っておりますなぁ。

 

 玄関先まで出て見送るママさんたちに、「そよちゃん、今朝もよろしくね」なんて声をかけられる。

 よろしくされるほどの事でもないんだけど、と思いつつ「はぁい」なんて調子よく手を振ってみたり。

 

 気がつけば、いつものように私とミチカを先頭にわらわらと子どもたちが後ろについて歩いていた。

 私はともかく、あまり列の先頭と縁のないミチカは、ここぞとばかりに毎回得意げな顔をするのだ。


 私達の行き先は、すぐそこにある公園だ。

 そこの公園には、いい具合に円形のベンチがあり、物語を語るにはぴったりのシチュエーションだったのだ。




「へぇ、夢のお告げ通りだ」

 調子よく元気に歩いていた私の耳に、いきなりそんな声が聞こえてきた。

 見ると、えらくオトコマエの男子が公園の入り口にある柵に、腰をかけていた。



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