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 伍代君と四条君の話が終わった頃、部活の休み時間になった岡村さんがやって来た。


 岡村さんは、まだ何の色も塗られていない紙芝居と私達三人の顔を見るなり、「ほら、やるわよ!」と声をかけてきた。

 伍代君が私に筆を渡してきた。


「三矢さんも塗って」


 え、と戸惑う私に、「ぼくが、やり方を教えるからさ」と、四条君が言ってくれた。

「あっ。あー! 以知子、お、おまえ、なんていう色を塗ろうとしてんだ!」

 誰に言われるでもなく、既に筆に絵の具をつけ塗ろうとしていた岡村さんの腕を、伍代君が、押さえている。


 そんな様子に笑いながら、私も慎重に紙に色をつけた。


「双葉ってば、葛原さんと一緒に帰ったわよ」

 岡村さんは色を塗りながら、ぶつぶつと話し出した。

「『二股双葉、アゲイン』とか、言われてる。双葉が、葛原さんと保品さんに気のある振りをした挙句、葛原さんと付き合い始めたとかなんとか。葛原さんって、紙芝居の彼女でしょ」


 伍代君や双葉から聞いたのだろう、岡村さんも知っていた。


「でも、それって、そもそも私が、彼女たちに」

「ストップ。あのね、そんなのわかってる。双葉の側にいる女の子が、どんなめに合うか。私のほうが、双葉との歴史が長いんだから」


 ふん、と岡村さんの鼻息が荒い。


「紹介しろだの、合コン企画してだの、チョコ渡してだの」、と岡村さんは言うと、「最悪なのは、私に向かい『ブス』って言ってくる子たち。おまえのほうが、ブスだって言い返すけどさ」


 今度は岡村さんは、はぁとため息をついた。

 そして伍代君に、「双葉に宣伝ポスターを渡しちゃったけど、回収すべき?」なんて聞いていた。


「顔がいいのも、善し悪しだね」

 四条君が言う。


 そうかもしれない。


「ともかく、双葉は、アホよ、アホ、アホ」


 岡村さんの言葉は乱暴だったけど、それと裏腹に愛情を感じた。

 岡村さんだけじゃない。

 みなが双葉のことを、思っていた。

 

 更に岡村さんは、「三矢さん。三矢さんまで責任云々言いだして、ここを抜けたら、怒るからね」と言った。

「え、なんだそれ。三矢さんは、そんなこと言ってないぞ」

 おまえ、適当なこと言うな、と伍代君が岡村さんに文句を言う。


 本当は、ほんの少し、そう考えていた私だったけど。

「うん」

 やめない。

 やめないよ。 







 作業が、二日、三日と続いても、やっぱり双葉は来なかった。

 双葉とは、クラスも離れているので、こうなると顔さえ見なかった。








 色塗りの作業も、慣れてきた。

 前回と同じことをしているんだから、まぁ、そうだろう。

 あの時の、はじめての時のようなこわごわさがなくなった分、作業は早く進んでいった。


 結局その週には、絵は仕上がってしまった。

 仕上がった絵に、色落ち防止のスプレーなるものをかけた。

 これで、もちが良くなるとかなんとか。


 そして、来週からはその完成した絵の裏に、手分けしながら台詞やトガキと描きこめば、完璧完成。

 すごい。

 なんだかんだありつつも、できそうだ。



 帰宅途中に、「言い忘れた!」という件名で「上演会のプログラムを組まないと」と、岡村さんからメールが来た。

 岡村さんも、クラブが終わったらしい。

 そして、よければ明日の土曜にうちに来て、なんてことと住所と最寄駅が書いてあった。

 私は、すぐにOkを返した。


 岡村さんがあまり出席できないと聞いてから、当日のプログラムとか、そっち方面にあまり意識がいっていなかったのだけど(というよりも、物語を考えたり絵を描いたりで一杯一杯だった)、言われればそうだ。

 私が公園で開くお話会だって、一応やることを決めて臨んでいる。

 そういった取り決めがないってことは、考えたらあり得ないことだったのに。

 私は自宅に連絡をして、図書館に寄るので少し遅くなることを、伝えた。



 私が顔を出すと、司書さんがにこにことした。

 あぁ、そういえば、一度遅い時間帯に来てみたらって、言われていたっけ。


 フロアを見ると、小さな子は親子で来ている一組くらいで(その一組も帰り支度をしていた)、あとは、小学生や中学生そして私と同じくらいの子もいた。


 ふーんと思いながら、絵本コーナーに向うと、明らかにその場所に不似合いな人物がいた。



 双葉だった。


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