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「小さなころは、もっと酷かった」
私の「引かないよ」が良かったのか、伍代君は自分と「夢」の話をしてくれた。
見た夢と同じことがもう一度起きたり、夢の中に出てきたその時には知らなかった人が、後日目の前に現れたり。
「人に何を話すかも、慎重になって。だからちょっと話下手というか。でも、最近は、ほとんど見ないんだ。せいぜい、体調が悪い時に見るか見ないかってくらいで。三矢さんの夢も、去年の年末風邪で熱を出した時に、見たんだけど」
それも久々だったし。
「あぁ、あの時ね。伍代、かなり苦しそうだったな」
「うん、そう。咳も止まらんし、鼻水だらだらだし」
……鼻水だらだら。
別に、薔薇で敷きつめられたベットの上で見た夢に、私が出てくるとは思っていないけど、そんなキャラじゃないってわかっているけど。
そうか。
鼻水だらだらで、熱が出て、咳が止まらない状況で、私が出てきたのね。
まぁ、私らしいといえば、そう。
それにしても、そんなことがあるなんて。
「不思議だね」
不思議だ。
「うん。なんなんだろうなぁって思うよ、これって」
一番不思議でしょうがないと思っているのは、伍代君自身なのだ。
「四条君についての夢も、面白いね」
「ほんとうだよ。伍代のお陰で、ぼくも気持ちが切り替えられたもんなぁ」と、四条君。
「そうなの?」と聞くと、四条君は頷き、「ぼく、中学の頃までは気弱だったから」と、びっくりするようなことを言ってきた。
「そもそも、入院したのだって、それが原因だし」
体は大きいけれど、本人曰く気が弱かった四条君は、中三になった時、受験でうっ屈した同級生たちの格好のターゲットになったらしい。
ちょこちょこと小さな怪我をさせられていた四条君は、ある日、階段から突き落とされて、複雑骨折をしてしまったそうだ。
そしてその時、伍代君と会ったと。
「伍代はさ、もう病院の主みたいで、小児病棟に新しい奴が来ると見に来て」
見に来てフレンドリーに話しかけるとかというと、そんなことはなく、ただ「見に来た」だけだったらしい。
伍代君ってば。
「それが、ある時から、必要以上に、ぼくの周りをうろちょろしだして」
「おまっ! うろちょろって、なんだよ」
こっちはな、言うか言わないか、悩んでいたんだよ、と伍代君。
「はは、ごめん。で、うろちょろした伍代が……」
「う、うろちょろ言うな!」
「はは。ともかく、伍代がすごく怖い顔をして、ぼくに話しかけてきたんだ。ぼくはてっきり、喧嘩でもふっかけられるのかと思ったら、『もっと体を鍛えな』って。はじめて会話をした奴から、いきなりそんなことを言われて、本当にびっくりしたよ」
だから、俺は、なんて言えばいいかって悩んでいて、と伍代君。
「うん、わかってるよ。『おまえ、体格いいんだから、それに見合った筋肉つけろ。できるだろ!』って、『強くなれるんだから、なれ』って、伍代は言ったんだ。そして、『そうすれば、好きな手芸だって、堂々と出来るようになる』、なんて言ってきてさ」
穏やかな顔をした四条君とは反対に、伍代君は気まずそうな顔をしていた。
「びっくりした。手芸なんて、病院ではしてないのに、なんで知っているんだろうって。でも、だからかな、退院してから体力作りに励んで。そうしたらどんどん体に筋肉がついて。それと同時に、今まであれほどぼくに嫌がらせをしていた奴らが、すっといなくなって」
中身は同じなのにね、と。
「で、ぼくは聞いたんだ、伍代に。 伍代と話したのは、あの時だけなんだけど、その時にメルアドを書いた紙も渡されていて。まさか自分が、ここに連絡することになるとは、思わなかったけど」
そこで四条君は、伍代君の「夢」を知ったそうだ。