表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/67

45

 デジャヴュと思えるような光景が、目の前に広がっていた。


 部室の机の上には、十二枚の紙芝居の下絵があったのだ。


「し、四条君……」

 ぐすんと湿った声の私に、「今回は、伍代も描いたし」と、四条君が言った。

「お、おまっ! 俺は、だから。……すまん」

 いきなり伍代君が、謝りだした。

「俺、間違ってた」


 伍代君はそう言うと、「俺、すごく嫌な奴だった」と言った。


「四条は絵が上手いから、だから、四条に任せるのが一番いいと思ってた。でも、週末、四条と一緒に下絵をやって。それ、違ったなと思った」

 伍代君は、そう言ったあとしばらく黙り、そしてまた話し始めた。

「四条に任せたのは、四条なら上手くできるから。逆に言えば、上手くなけりゃだめだって思いがあったんだ。背景の色塗りも、俺と四条でやってしまった。それがいいと思ったけど、そのいいって思いの中に」


 ごめん、三矢さん、と伍代君がぺこりと頭を下げた。


 「他の奴には任せられないって思いが、あったんだと思う」と言った。


「俺、傲慢だ」

「そうかなぁ。でも、わかるけど。その気持ち」

 いいものを作りたいって思いは、何をするにしても誰にでもあることだから。

「そう言って貰えると助かる、って、こんな大事な時に、双葉は来なくなるしさぁ。昨夜、突然だもんな、サークル抜けるって。もう、それ知った以知子が、大騒ぎで」

 大変だったよ、と伍代君が言うと、そりゃ大変だったなぁ、と四条君がいたわりの声をかけていた。


 昨夜?


「三矢さんのとこにも、連絡あった?」

「あ、はい。うん。ええ」


 あれ? 

 私に話す前に、みんなに相談済みなのでは?

 あれ。

 もしかして、私が引きとめる役だったとか?


「こんな肝心なことなのに、夢、見なかったし」

 伍代君が言う。

「……夢?」


 なんのことだろうと首を傾げると、伍代君の顔が青くなった後、ぱっと赤くなった。


「あ、俺は、だから、今のは」

 伍代君が焦って言う。

 すると、四条君は伍代君の頭をぽんと叩いた。

「三矢さん、ぼくが去年コンテストに出たのって、伍代に言われたからなんだ」


 話が変わる。


「あ、え? そうなの」

「おまっ! 四条」

「ぼくに言われたくないなら、伍代が言いなよ」


 四条君に促され、伍代君は、あーとか、うーとか言いだした。


「俺、見たから、四条がコンクールに出るのを」

「ふーん。そうなんだ」


 でも、どこで見たんだろう。


「あぁ、もう、三矢さんは! だから、見たの、夢で! 四条が、大きくなった四条が、手芸の布を持って、何かのコンテストに出て優勝するのを」

「……夢で」

「ぼくが中三で、入院したとき、伍代にそう言われた」

「中三。入院」


 はて、と首をひねる。

 コンテストは、高校に入ってからだ。

 どういう意味だろう。


 そんな私の様子に、伍代君は焦れたようになる。


「歩道を歩く女の子。その後ろには、彼女の物語を聞くために集まった子どもたち。女の子は、公園まで子どもたちを引きつれ歩いた。まるで、ハメルーンの笛吹き男のように」

「……はい?」

「見たんだ、三矢さんの夢を。子どもたちを引き連れて歩く三矢さんの姿を。そしてその三矢さんに向って、声をかける双葉も」

「うん。……え?」


 伍代君は、何かを決心したような顔で私を見ている。

 これは、冗談なんかじゃない。




「夢のお告げ通りだ」

 双葉のあの言葉には、別の意味があったってこと?


「否定しないで、とりあえず信じて欲しい」

 岡村さんだ。




「あっ、そうか。そういうことか」


 伍代君が、私のことをろくに知らないのに、双葉経由で誘ってきたのも、伍代君でなく双葉が来たのも、こういうことだったんだ。


「引くよね」

「引かないよ」

 

 だって、伍代君の「夢」があったから、今、私はここにいるんだもん。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手 by FC2

cont_access.php?citi_cont_id=270017545&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ