44
その夜、伍代君からメールがあった。
そこには、週明けから、色塗り作業にかかるとあった。
更に、双葉からもメールが入った。
明日の放課後、部室に来て欲しい、と。
迷った挙句、了解のメールを送った。
本来なら、今日も作業日だった。
もうすぐできるね、なんて話しをしながら、作業をしていただろう日だ。
そのことを考えると、落ち込むなと言われても落ち込んでしまう。
でも、今、一番大変なのは四条君だ。
また同じ絵を、描くわけだから。
今朝、隣のクラスに顔を出して謝ると、「大丈夫だよ」と、言ってはくれたけど。
だからって、それを鵜呑みにする、私ではない。
大丈夫なはずは、ないのだ。
責任を感じる……。
放課後、部室に行くと、既に双葉は来ていた。
気のせいか、空気が重い重い。
昨日、私は伍代君に双葉の名前は、出さなかった。
昨晩、双葉からメールが来た時、双葉に何をどの程度伝えるかを考えていたら、眠れなくなった。
そもそもが。
そもそもが、私なのだ。
あぁ、あの日の余計なひと言が、ここまで尾を引いてしまったなんて。
双葉には、あの日の尻拭いだけでなく、今回も迷惑をかけてしまったのだ。
怒られるかな。
怒鳴られるかな。
あぁ、でも、それで気が済むのなら。
いやいや、気が済むす済まないって話じゃないし。
「三矢さん」
「は、はい」
情けないことに、返事をする声が裏返ってしまった。
「ごめん」
「いえいえ……はぁ?」
なんで双葉が謝るの?
「来たんだろ、葛原さん」
「あ、うん」
あぁ、そっちか。
葛原さんで、正解か。
「ぼくを探しに来たんだと思う」
「彼女が、部室に、国府田君を?」
昨日は、双葉は、来ない日だった。
「それは、見当違いだったね」
でも、彼女はそんなことは知らないか。
「国府田君は、今日は来ない日だよって、言えば良かったのかなぁ」
たられば話だが、そうなるのだろう。
「いや、違うんだ」
国府田君が、ためらいがちにそう言った。
「昨日、サークルに行くって彼女に言ったのは、ぼくで」
「国府田君が? なんで?」
「帰る途中で、塾が休みなのを思い出して。……だから、行くつもりっていうか、行ったっていうか」
「あ、来たんだ。もしかして、私と伍代君が、紙芝居を探しているときじゃない? 部室に鍵をかけちゃったから、入れなかったでしょ」
それはそれは、と双葉を見ると、双葉は「まぁ、うん」と、煮え切らないような返事をしてきた。
「こんなこと私が言うと偽善なんだけど、私、彼女が紙芝居を取るところも、池に入れるところも見てないんだよね。それでも、なんていうか、彼女がやったなんて思ってて」
「やったの、彼女だよ」
「……もしかして、本人に聞いたの?」
「聞いた」
「それは」
見てないのに、彼女がやったと思ってしまう私と、直接ずばりと問い正す双葉のどっちがいいか。
どっちも、どっちなんだろうな。
でも、やったことを素直に双葉に言ったってことは、もしかして双葉に問われることを待っていた、とか?
「あのさ、彼女もサークルに入ってもらえば?」
彼女は、「三匹のくまの」のゴルディロックスだ。
「一緒にやるうちに、何か見えてくるかもしれないし」
ふいに、双葉が笑いだした。
「だから、三矢さんは、お子さまだっていうの」
あほらしい、となおも双葉が笑う。
「三矢さんって、世の中の人みんなイイヒトだとか思ってる?」
「お、思ってないよ!」
「でも、そう聞こえる」
「そんなこと、言ってないよ」
はぁ、と双葉は笑うのを止めると、「誰も彼もが物語みたいに、ハッピーエンドには、ならないんだよ」と、吐き出すように言った。
「三矢さんは、もしかして彼女が自分たちと一緒に行動するうちに、自分のしたことの重大さをわかってくれるとか、思っているのかもしれないけど」
ず、図星だ。
「世の中にはね、自分がしたことが悪いって思わない人、多いの。明らかに、おまえおかしいだろって言っても、認めない奴がどれだけいることか」
そんなこと、双葉に言われなくても、私だってわかっている。
「また、するかもしれない。あの子」
「えっ」
それって、つまり。
「反省の色なしだよ。どうしたらいいの、こんなキャラクターが物語にいたらさ」
三矢さん、教えてよ、と双葉が言う。
そんなこと聞かれても、わからない。
……わからないよ。
「ってことで、ぼく、サークルを抜けようと思って」
「え、やめるってこと?」
「うん。ぼく、絵を描けるわけでも、物語を考えられるわけでもないし」
「で、でも、手話は」
「夢がいるから」
そう言われたらそうだけど。
でも、そんなこと知ったら、みんな反対するんじゃ。
「あ、もしかして、もう他の人には言ったんだよね」
双葉にとっては私より、他の三人との結びつきが長く深い。
きっと私には、つまりが事後承諾だ。
三人が双葉をとめてないのなら、私にだってそんなことは、できない……そうだよね。
「途中で投げ出して悪いけど」
双葉はそう言ったあと少し黙り、そして「夢をよろしく」と言った。