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「あ、どうしよう」
ショックから何も考えられない。
「三矢さん、落ち着いて」
いったい、なにが起きたの?
「三矢さん!」
伍代君が目の前にきて、私の肩をつかんだ。
「ご、伍代君」
伍代君と目を合わす。
「深呼吸して」
思いもよらないことを、言われた。
「こ、呼吸なんて」
すると、伍代君が真似をしてといわんばかりに、大きく呼吸を始めた。
伍代君にあわせて、深呼吸を繰り返す。
「で、なにがあったの」
「あの、サークルに興味がありそうな子がきて」
双葉の名前を出していいのかわからないので、そう表現した。
そして、同じ学年の葛原さんか保品さんだと思う、とも伝えた。
「わかった。一緒に探しに行こう」
貴重品だけを持ち、私たちは部室に鍵をかけた。
まずは、彼女が去っていった方向へと進んだ。
部活中のクラブも多いので、伍代君が会う人会う人に、私があげた二人の名を出し、見かけたかどうかを聞いていた。
私は自分がしてしまったことが恐ろしく、ただ伍代君のあとをついているだけだった。
しばらくすると、紙の束を持った女の子を見かけた、という情報が入った。
そこは校舎と校舎の間にある、裏庭と呼ばれる場所だった。
そこにいくためには、今来た道を途中まで戻らなくては、行くことができない。
私たちは、急いで方向を変えると、裏庭へと向かった。
裏庭に着いたとき、そこに誰もいなかった。
けれど、紙芝居はあった。
それを、紙芝居と呼んでいいなら。
裏庭にある小さな池一面に、私たちが作っていた、もうすぐ完成する予定だった紙芝居が浮かんでいたのだ。
目に映る状況がにわかに信じられず、私は思わず伍代君の制服の裾を握ってしまった。
どうしよう。
私のせいだ。
もう、その言葉しか頭になかった。
「三矢さん、ちょっとこっち」
その声とともに、私は伍代君に腕を掴まれた。
そして、伍代君は池ではなく、保健室へと私を連れて行った。
病気も怪我も少なかったので、私は今まで保健室とは、あまり縁がなかった。
入室してから、初めて思った。
そういえば、ここに入るのって、初めてだなぁと。
伍代君が先生に何かを言うと、先生は私に椅子に座るよう勧めてくれた。
そして伍代君はというと、先生から貰ったビニール袋を持ち、部屋を出ていったのだ。
「伍代君と三矢さんが、仲がいいなんて知らなかったな」
明るい声で先生に言われたが、返事をする気になれなかった。
「伍代君、意外と冷静だったでしょ」
その言葉に顔を上げる。
「大丈夫よ。彼は、今、三矢さんが思う大変さの、何倍もの大変を乗り越えてきたんだから。だから、大丈夫。頼って任せれば」
……でも。
「あ、お待たせ」
伍代君が、紙芝居が入っていると思われるビニールを手に、帰ってきた。
伍代君に駆け寄る。
「ごめん、私のせいで」
すると伍代君は、笑った。
私は、びっくりした。
「うん、実はさ、やけに順調に進むなぁって、ちょっと思っていたから」
それは、私も思っていたけど。
でも、そんなことを言える立場じゃない。
「でも、どうしよう」
約束の期日は、迫っている。
「作るよ」
「え」
「作りなおす。そうしないと、前に進めない」
伍代君のきっぱりとした言葉が、私の胸に響いた。