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どんどん色がついていく紙を眺めていたら、「あ、以知子のやつ」と伍代君の声がした。
伍代君は、岡村さんの携帯電話を片手で持つと、「忘れてるし」と、脱力した声を出した。
「あっ。じゃあさ、私が届けてくるよ」と携帯を受け取ると、伍代君にお礼を言われた。
人の携帯電話を持っているのは、あまりいい気持ちじゃないので、自然と早足になった。
放送部だからといって、いつも活動は放送室で、というわけでもないようだ。
しばらくは部室での活動が続くということは、岡村さんが休憩時間にここに顔を出すとなったときに、聞いていた。
放送部の部室は、文芸部部室の並びにあり、一番手前だ。
(ちなみに文芸部は、一番奥)
放送部や文芸部といった、文化系のクラブの部室は一列に並んでいて、廊下にはコピー機や自動販売機があった。
双葉は、飲み物を買いに行ったきり、まだ戻ってこなかった。
もしかして、何を買うか忘れて、自販機の前で悩んでいるんじゃないの、と思うと可笑しくなった。
ここの廊下は一直線だから、少しくらい遠くても、その姿は見えるんだろうな――と思ったら、すぐに発見できた。
そして、双葉のそばには、岡村さんがいた。
これはラッキーだ。
部活中に部室をノックをするのは、実はあまり気が進まないことだったから。
「おか――」と私が呼ぼうとすると、「おまえ、あまりふざけるなよ」と双葉の声がした。
双葉に対して、岡村さんが小声で何かを言ったようだ。
すると双葉は、「夢の姫に、手は出さないよ」と言った。
これは、なにやらお取り込み中では……。
修羅場ってやつでしょうか。
君子なんとか、ですよ。
迷わず回れ右をして戻ろうとしたら、「三矢さん!」と、岡村さんのそれはそれはよく通るお声が、背中に刺さってきた。
やばいなぁ、と思いつつ、そろりと振り向くと、そこには岡村さんしかいなかった。
双葉は何処に。
修羅場、終了?
きょろきょろとしながら岡村さんに近づくと、「ありがと」と彼女は手を出してきた。
その上にぽんと、携帯電話を載せる。
「忘れたの、気づいた?」
当然のように差し出してきた手に戸惑いながら聞くと、「故意、だから」と返ってきた。
故意?
ふーん、故意か。
でも、なんで?
「三矢さん」と、岡村さんは言うと、いきなり抱きついてきた。
「三矢さんって、UFOを信じる?」
いきなりの、クエスチョンだ。
「……信じるけど」
この広い宇宙において、生物が宿る星が、地球だけだなんて思わない。
「でも、月に兎はいないと、思ってはいるけどね」
私がそう言うと、岡村さんはくすくすと笑った。
ぱっと体を離される。
「これから、三矢さんにとって、その……なんていうか、信じられないことが出てきたとしても」
いつもは饒舌な岡村さんの、歯切れが悪い。
「否定しないで、とりあえず信じて欲しい」
「……もしや岡村さん。どこかの星からやってきた、とか?」
どこかの星。
……姫。
そうだ、レイアだ!
「夢の姫に、手は出さないよ」
なるほど!
ってことは、伍代君はルークで。
ソロは、双葉。
では、四条君と私で、C-3POとR2-D2を引き受けよう。
ん?
だから、なんなんだ?
「ともかく、もしそんなことが起きたら、今の私の話を思い出してほしい」
そう言うと岡村さんは「携帯、ありがと」と振ってみせ、放送部へと消えて行った。




