39
週が明けての月曜日。
部室の机の上には、四条君が描いた十二枚の紙芝居の下絵が、広げられていた。
壮観!
四条君からは、これからの段取りについての説明があった。
まず、全ての場面に、水彩絵具で背景となる色を、塗ること。
そして、それが乾き次第、各自が担当する「絵がら」を塗ることも。
ミチカのように、塗り絵が得意でもなければ、美術の成績だって普通だった私にとって、内心この作業が一番心配だった。
けれど、四条君が手順を説明してくれたことで、やることの道筋が見えてきて、それだけでともかく安心できた。
四条君は、それぞれの「絵がら」の色見本も、作っていてくれた。
私は「雲」担当だったので、「灰色」と「白」だ。
使用道具は、色鉛筆。
ということで、さっそくその二本を手に取った。
背景の色塗りは、伍代君と四条君でやっていた。
それを見ていると、やっぱり伍代君は、こういったことに慣れているように思えてしょうがない。
「あのさ、伍代君って」
側にいた双葉に、こそっと聞く。
「実は、絵を描くのが得意なんじゃないかな」
教えて教えて、といった顔で双葉を見上げると、「本人に聞けば」と思いのほかつれない返事が来た。
けち!
「いいわよ。本人に聞くから……多分。で、国府田君はどうなの? 絵は上手なの?」
「背景の色塗りをしているのが、誰と誰かってことから、自ずと答えは出るんじゃないのかな」
「なるほどね。つまり、私と同じか」
仲間だねと言うと、「なんか嬉しくないなぁ」と、双葉は失礼な事を言ってきた。
「みなさん、こんにちは!」
岡村さんが、賑やかに登場した。
岡村さんは部活がある日でも、休憩時間にこうして顔を出すことになっていた。
「あ、進んでいるね」
岡村さんは、伍代君と四条君が塗っている絵を覗き込みながら、「いい感じね」と嬉しそうだった。
「そっか、でも背景を塗っているってことは、私達の出番は今日はなしね」
じゃ、戻るかなぁと、岡村さんが言う。
「え、出番なし?」
どういうこと、と双葉を見たが、あははは、なんて笑って使い物にならない。
「なんで、今日は出番なしなの?」と岡村さんに聞くと、「だって、絵具で濡れた紙に、色鉛筆は使えないでしょ」と言われた。
そうだ。
確かに、その通り。
濡れている紙に、色鉛筆で色をのせようとしたら、芯で紙を削ってしまう。
「以知子さぁ、せっかくの楽しみを取らないでくれよ」
双葉がそう言うと、「だって、いつまでも気がつかないピュアな三矢さんが不憫で」と、岡村さんが答えた。
「私がピュア?」
どちらかというと、黒いと思っていましたが。
「ピュアよ。だって、出番もないのに色鉛筆を両手に握って」
右に灰色、左に白。
岡村さんの言うとおり、私は色鉛筆を握っています。
「あのさ、国府田君」
もう、やけになって、色鉛筆を握ったまま突っかかる。
「気づいたら、言おうよ。っていうか、これ握った時点で言ってよ」
出番もないのに、両手に色鉛筆を握ってやる気満々って、恥ずかしい。
でも、そうか。
今日は、出番なしか。
少しがっかり。
「いやさ、三矢さんが、ぼくの想像と違った、色鉛筆の使い方をするかもしれないって思ってさ。それを見届けてからでも、遅くないかなぁと」
想像と違った、色鉛筆の使い方?
あるか、そんなもん。
「まぁまぁ、そこのお二人さん」
そう言うと、岡村さんはくすくすと笑った。
「仲良きことは、なんちゃらちゃってことで。ともかく、私はクラブに戻るね。また明日」
そう言うと、岡村さんは、またまた賑やかに退場していった。
「まったく、あいつは」
双葉はぼそり言うと、「ぼく、喉が渇いたから飲み物を買いにいくけど、欲しい人いる?」と聞いてきた。
そこで私達は、双葉の記憶力を試すべく、三人それぞれ違う飲み物を頼んだ。