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 週が明けての月曜日。

 部室の机の上には、四条君が描いた十二枚の紙芝居の下絵が、広げられていた。

 壮観! 

 


 四条君からは、これからの段取りについての説明があった。

 まず、全ての場面に、水彩絵具で背景となる色を、塗ること。

 そして、それが乾き次第、各自が担当する「絵がら」を塗ることも。


 ミチカのように、塗り絵が得意でもなければ、美術の成績だって普通だった私にとって、内心この作業が一番心配だった。

 けれど、四条君が手順を説明してくれたことで、やることの道筋が見えてきて、それだけでともかく安心できた。


 四条君は、それぞれの「絵がら」の色見本も、作っていてくれた。

 私は「雲」担当だったので、「灰色」と「白」だ。

 使用道具は、色鉛筆。

 ということで、さっそくその二本を手に取った。


 背景の色塗りは、伍代君と四条君でやっていた。

 それを見ていると、やっぱり伍代君は、こういったことに慣れているように思えてしょうがない。


「あのさ、伍代君って」

 側にいた双葉に、こそっと聞く。

「実は、絵を描くのが得意なんじゃないかな」

 教えて教えて、といった顔で双葉を見上げると、「本人に聞けば」と思いのほかつれない返事が来た。


 けち!


「いいわよ。本人に聞くから……多分。で、国府田君はどうなの? 絵は上手なの?」

「背景の色塗りをしているのが、誰と誰かってことから、自ずと答えは出るんじゃないのかな」

「なるほどね。つまり、私と同じか」

 仲間だねと言うと、「なんか嬉しくないなぁ」と、双葉は失礼な事を言ってきた。


「みなさん、こんにちは!」

 岡村さんが、賑やかに登場した。

 岡村さんは部活がある日でも、休憩時間にこうして顔を出すことになっていた。


「あ、進んでいるね」

 岡村さんは、伍代君と四条君が塗っている絵を覗き込みながら、「いい感じね」と嬉しそうだった。

「そっか、でも背景を塗っているってことは、私達の出番は今日はなしね」

 じゃ、戻るかなぁと、岡村さんが言う。

「え、出番なし?」

 どういうこと、と双葉を見たが、あははは、なんて笑って使い物にならない。

「なんで、今日は出番なしなの?」と岡村さんに聞くと、「だって、絵具で濡れた紙に、色鉛筆は使えないでしょ」と言われた。


 そうだ。

 確かに、その通り。

 濡れている紙に、色鉛筆で色をのせようとしたら、芯で紙を削ってしまう。


「以知子さぁ、せっかくの楽しみを取らないでくれよ」

 双葉がそう言うと、「だって、いつまでも気がつかないピュアな三矢さんが不憫で」と、岡村さんが答えた。


「私がピュア?」

 どちらかというと、黒いと思っていましたが。

「ピュアよ。だって、出番もないのに色鉛筆を両手に握って」


 右に灰色、左に白。

 岡村さんの言うとおり、私は色鉛筆を握っています。


「あのさ、国府田君」

 もう、やけになって、色鉛筆を握ったまま突っかかる。

「気づいたら、言おうよ。っていうか、これ握った時点で言ってよ」

 

 出番もないのに、両手に色鉛筆を握ってやる気満々って、恥ずかしい。

 でも、そうか。

 今日は、出番なしか。

 少しがっかり。


「いやさ、三矢さんが、ぼくの想像と違った、色鉛筆の使い方をするかもしれないって思ってさ。それを見届けてからでも、遅くないかなぁと」


 想像と違った、色鉛筆の使い方? 

 あるか、そんなもん。


「まぁまぁ、そこのお二人さん」

 そう言うと、岡村さんはくすくすと笑った。

「仲良きことは、なんちゃらちゃってことで。ともかく、私はクラブに戻るね。また明日」


 そう言うと、岡村さんは、またまた賑やかに退場していった。


「まったく、あいつは」

 双葉はぼそり言うと、「ぼく、喉が渇いたから飲み物を買いにいくけど、欲しい人いる?」と聞いてきた。


 そこで私達は、双葉の記憶力を試すべく、三人それぞれ違う飲み物を頼んだ。


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