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私の前髪を生で見たいと言った生島と、会うことになった。
双葉から貰ったピンは、だからしていない。
場所は、高校生の憩いの場であるファストフードだ。
久しぶりに会った生島は、えらく機嫌が良かった。
同じ学校に、志を同じとする仲間を見つけたらしい。
「それって、高二にもなってかよっ」と突っ込むと、「仕方ないじゃん。その子、一年生だったんだから」去年はいないっつーの、と答えが返ってきた。
ともかく、友が幸せなのは喜ばしい。
「そういえばさ」と、私は山中先生が言った、高校生と大学受験と部活動についての話を、生島にした。
生島は帰宅部なので、だとしたら今からでも何かしら打ち込めるものを見つけたほうがよかろうと(まるで、山中先生が乗り移ったかのような言葉だ)思ったからだ。
「そよ~。そよそよ」
ぐりぐりと、生島が人の頭をなでてくる。
「私ね、部活はしてないけど、委員会活動はしているから大丈夫なのよん」
なんでも生島は高一から続けて、図書委員をしているそうだ。
「そこらへんは抜かりないわよ。でもありがとね」と生島が言うので、「ほぉ! それは賢き選択」と驚くと、「そよもさぁ、少しは野心を持って、学生生活を送らんといかんよ」と逆に説教されてしまった。
「野心ってなによ」
「例えば、文芸部の復活とか?」
「無理無理、そんな気力ない」
「あっそ。だったら、その双葉とやらを、ものにするとか」
「……あのね。一度実物見てみ。びっくりするほど、いい顔だから」
「ほぉ。そのいい顔の男と、夜な夜な顔をつきあわせて紙芝居を」
「……生島が言うと、すっごくいかがわしく聞こえるのは、何故だろう」
「意図的だもん」
「意図するな」
もう、どいつもこいつも、と腹がたってくる。
「確かに、双葉はいい奴だし、物書きにとっては貴重な存在だよ。そこに陥落したのは事実だけど、なんていうかなぁ」
うーんと言いながら、ジュースを飲む。
「そういうんじゃ、ないんだよね……」
「それね、恋愛小説の鉄則。たいていみんな、最初はそう言うんだよね」
「幾島が、ホラーだけじゃなくて恋愛小説にも造詣が深いとは、知らなんだ」
「ふふ。実践中なんだな」
にやけた顔の生島を見て、むせた。
「じ、実践中? 恋愛小説を書いているってことじゃ」
「ないです」
「ってことは。ま、ま、まさか!」
「ふふ。そのまさか、よ」
「ほぉ!」
「そよに、その報告もしたくて、会いたかったんだわ」
生島はそう言うと携帯を出し、彼氏なる人の写真を見せてくれた。
「図書委員の一年生」
「年下か!」
ん?
「もしや、その趣味が同じ一年生っていうのは」
「そよにしては鋭い。大正解よ」
へぇ、と思い、もう一度、生島の年下彼氏を見た。
「……普通の人に見える」
「……あたりまえでしょ。ホラー好きだからって、見た目もホラーってわけじゃなかろうよ」
私だってそうでしょ、と生島。
「人は見かけじゃないから」と生島は言うと、「いいお顔だろうが、それなりだろうが、中身は同じだから」と。
ねぇ、そよ、わかってる? と生島は言うと、私のおでこを人差し指でつんとしてきた。