表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/67

32

 紙芝居を一通り見た後、四条君が描いた場面を眺め、自分の原稿を置いた。

 そして気合を入れて、場面に合い、話が繋がるような言葉のチョイスを始めた。


「ひとりごと、言ってるよ」

「おわっ?」


 顔を上げると双葉がいた。


「できたの?」

「うーん。……うん、一応」


 ……できた、が。


「ん、じゃ、ぼく聞いているから、やってみてよ」

「ほ、ほんと?」


 今の声は大きかったと回りを見たが、本当に今日は誰もいなかった。


「大声じゃなけりゃ、大丈夫でしょ」

 双葉もここが図書館だってことをわかっての、言葉だったようだ。

「うん、じゃあ、よろしく」


 うわぁ、よかったぁ。

 書いたものの、これで通じるかどうか、不安だったんだよね。

 ふふふと笑いながら、読み始めようとすると、隣の席からくくくと笑い声が聞こえてきた。


「あ、ごめん。どーぞ」

 読んで読んで、と双葉が催促をする。

「……んじゃ、読みます」

 ということで、私は場面を指でさしながら、紙芝居用にした物語を読み始めた。


 双葉は、話を聞きながら「誰の台詞かわかんない」とか、「うーん。説明長いし」といったダメ出しをバンバンしてきた。

 その度に止まって、赤を入れて、また少し戻っては読みだす、といった作業をしていたら、あっというまに時間が過ぎた。


 そして、できてしまった。

 紙芝居用の台本が。


 最初は、台詞やナレーションだけを作るつもりだったけど、双葉が「そこゆっくりでしょ」とか「声は小さくじゃない」など言うもんだから、終わってみたら全部でできていたってこと。


 双葉、使える男だ。

 ううん、双葉だけじゃない。


「あのさ、キミタチって仕事早いね」

 軽く放心状態になりつつそう言うと、そうかなぁと言われた。

「いや、絶対に早い。文芸部でこれやったら、もう平気で三日はかかる。あれこれ意見が出て」

「あぁ、それはさ、話し合う人がみんな、何かを創るひとだからでしょ」

「何かを創るひと?」

「うん。三矢さんとか、四条とか」

「あ、あぁ。ふーん。そうなのかなぁ」

「そうだよ。……羨ましいと思うよ」


 そう言うと双葉は、三矢さんなんか特にね、と言った。


「このワタクシの、どこがっ!」

 これといって優れたところのない、ワタクシの。

「まぁ、顔も容姿も恐らく成績も、ぼくは三矢さんに勝っているとは思うけど」

「……喧嘩売ってんの?」


 全然羨ましいとは思えない言葉に、むしろ全然好ましくない表現に、腹が立ってくる。

 双葉は、笑いながら「まさか」と言ったが、今まで聞いた「まさか」の中で、一番信憑性のない「まさか」だった。


「もし、今ここで、電気も消えてガスも消えて、ぼくたち二人だけになったとしても、そんなときでも三矢さんは産みだすことができるでしょ、物語を」


 あっ。

 確かに、そうだ。

 私の物語作りは、そこから始まったのだから。


「ぼくは、そんなことできない。読んだ話をそのまま伝えることはできても、それ以上のことはできないから」

「……それって、国府田君にとって大事なことなの?」

 私が聞くと、双葉は「昔はね」と言った後、「今は、どうなんだろうなぁ」と曖昧な答えをした。


 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手 by FC2

cont_access.php?citi_cont_id=270017545&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ