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紙芝居を一通り見た後、四条君が描いた場面を眺め、自分の原稿を置いた。
そして気合を入れて、場面に合い、話が繋がるような言葉のチョイスを始めた。
「ひとりごと、言ってるよ」
「おわっ?」
顔を上げると双葉がいた。
「できたの?」
「うーん。……うん、一応」
……できた、が。
「ん、じゃ、ぼく聞いているから、やってみてよ」
「ほ、ほんと?」
今の声は大きかったと回りを見たが、本当に今日は誰もいなかった。
「大声じゃなけりゃ、大丈夫でしょ」
双葉もここが図書館だってことをわかっての、言葉だったようだ。
「うん、じゃあ、よろしく」
うわぁ、よかったぁ。
書いたものの、これで通じるかどうか、不安だったんだよね。
ふふふと笑いながら、読み始めようとすると、隣の席からくくくと笑い声が聞こえてきた。
「あ、ごめん。どーぞ」
読んで読んで、と双葉が催促をする。
「……んじゃ、読みます」
ということで、私は場面を指でさしながら、紙芝居用にした物語を読み始めた。
双葉は、話を聞きながら「誰の台詞かわかんない」とか、「うーん。説明長いし」といったダメ出しをバンバンしてきた。
その度に止まって、赤を入れて、また少し戻っては読みだす、といった作業をしていたら、あっというまに時間が過ぎた。
そして、できてしまった。
紙芝居用の台本が。
最初は、台詞やナレーションだけを作るつもりだったけど、双葉が「そこゆっくりでしょ」とか「声は小さくじゃない」など言うもんだから、終わってみたら全部でできていたってこと。
双葉、使える男だ。
ううん、双葉だけじゃない。
「あのさ、キミタチって仕事早いね」
軽く放心状態になりつつそう言うと、そうかなぁと言われた。
「いや、絶対に早い。文芸部でこれやったら、もう平気で三日はかかる。あれこれ意見が出て」
「あぁ、それはさ、話し合う人がみんな、何かを創るひとだからでしょ」
「何かを創るひと?」
「うん。三矢さんとか、四条とか」
「あ、あぁ。ふーん。そうなのかなぁ」
「そうだよ。……羨ましいと思うよ」
そう言うと双葉は、三矢さんなんか特にね、と言った。
「このワタクシの、どこがっ!」
これといって優れたところのない、ワタクシの。
「まぁ、顔も容姿も恐らく成績も、ぼくは三矢さんに勝っているとは思うけど」
「……喧嘩売ってんの?」
全然羨ましいとは思えない言葉に、むしろ全然好ましくない表現に、腹が立ってくる。
双葉は、笑いながら「まさか」と言ったが、今まで聞いた「まさか」の中で、一番信憑性のない「まさか」だった。
「もし、今ここで、電気も消えてガスも消えて、ぼくたち二人だけになったとしても、そんなときでも三矢さんは産みだすことができるでしょ、物語を」
あっ。
確かに、そうだ。
私の物語作りは、そこから始まったのだから。
「ぼくは、そんなことできない。読んだ話をそのまま伝えることはできても、それ以上のことはできないから」
「……それって、国府田君にとって大事なことなの?」
私が聞くと、双葉は「昔はね」と言った後、「今は、どうなんだろうなぁ」と曖昧な答えをした。