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私の前髪は、概ね不評で、それがかえってありがたかった。
罰なのだから、それでいいのだ。
休み時間に廊下を歩いていたら、元文芸部顧問、現サークル担当の山中先生に声をかけられた。
「三矢、伍代のサークルに入ったんだってな」
よろしい、よろしい、と笑みを浮かべている。
「先生、なんか、嫌な感じ」
文芸部の部室なんて使ってさ、と一応、元文芸部としての文句を言う。
「はは。まぁ、しょうがないな。でも、あいつら一生懸命だろ」
そう言われると、頷くしかない。
双葉じゃないけど、彼らの行動を見ていると、嫌でも私の「営業努力」不足を感じたからだ。
「それに、高校で何かをすることは、三矢にとってもいいだからさ」
山中先生はそう言うと、「大学入試の時の書類。いろいろと書くことがあったほうがいいからな」と、さもとっておきのことを教えてくれるかのような、ひそひそ声で言った。
大学受験。
ぱっと頭に、暗記の神が浮かんだ。
……何かコツでもあるんだろうか。
今度、聞いてみようかなぁ。
「何を誰に訊くって」
今まさに思い浮かべていた人物が、そこにいた。
声に出していたか、私。
「国府田君に、暗記のコツを聞こうと思って」
勢いにのって聞いてみる。
「あ、それね。ぼくにもわからないんだよね」
双葉の答えは、肩すかしを食うようなものだった。
「親父も、すごく暗記が得意だったみたいだけど、それがある日」
国府田君が声をひそめた。
「二十五を過ぎたあたりから、全く何も頭に入らなくなったって」
国府田君の話に、びっくりする。
「親父曰く、やっぱり人間の脳には溜めておける情報の量ってものがあるから、だからおまえも若いうちにその能力で行けるとこまで行け、と」
なぁんか無責任に聞こえるんだよなぁ、と国府田君が肩をすくめた。
「暗記科目だけじゃ、東大に行けないし」
「東大! 受験するの?」
「まさか。受験料の無駄」
きっぱりと、国府田君はそう言う。
そして、予定が入ったから、悪いけど図書館には先に行っててもらえるなか、と言ってきた。
うちの近所の図書館は、地下のある二階建で、子ども向けの書籍は二階にあった。
階段を上ると、馴染みの司書さんがいたので、挨拶をした。
「あれ? 今日は、誰もいないですね」
いつもなら、何人かの子は必ずいるここに、誰もいなかった。
「うん、学校行事があったから、今日はみんな来ないかもねぇ」
疲れたり、はたまた遊ぶ時間がなくなりそのままおけいこ事や塾へと。
「あの、だったら」
私は紙芝居を作ることを伝え、図書館にある紙芝居を参考にしたいことと、その作業をここでしてもいいかを続けて聞いた。
二階の席は、子どもが優先だ。
だから絵本や童話を読むときは、わざわざ別の階に持って行き、読んでいたが。
「うん、いいわよ。というか、前から言った方がいいだろうな、と思っていたけど」
そう言うと司書さんは首を傾げた。
「三矢さんだって、図書館としては、まだ子どもの分類になるのよ」
高校生まで、ここの階を優先に使っていいんだもの。
「え! そうでしたか」
司書さんからみたら、私もお子様と同類!
「三矢さん、今度来る時間を遅くしてみたらいいわ。中高生がここで宿題をしているから」
たまに数学とか聞かれて、困る時あるのよねぇ、と司書さんは苦笑いをした。




