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朝、私の顔を見るなり、両親は口をあんぐりと開けた。
声も出ないようだった。
「そ、それは、今の流行りなのかい?」
先に立ち直ったと思われるお父さんからそう聞かれたので、しらっとした顔で「一部で」と答えた。
内心、そこまで驚かれるとは思っていなかったので、念のために自分の写真を撮り生島に送ると、「生で見せろ」とすぐに返ってきた。
さらに、「最近料理もどきに凝っているから、いいのができたらあげるね」とも。
「いいの」かぁ、とあれこれ想像する。
未だかつて、生島が言う「いいの」が、私にとっての「いいの」だった例は、一度もなかった。
通学路でも、会う子会う子に、微妙な顔をされた。
そこまでかなぁと思いながら歩いていると、「三矢さん、おはよう」と伍代君の声がした。
くるりと振り向くと、伍代君だけでなく、そこには四条君と国府田君までいた。
「おはよう」
三人の顔を見て挨拶をする。
均等に見たい気持ちはあったけど、うしろめたい気持ちのせいか、国府田君を見る秒数は三秒ほど少なかったかもしれない。
私の顔を見た三人は、両親と同じようにびっくりした顔になった。
伍代君に至っては、顎が外れるんじゃないかって、こっちが心配するほどだ。
「十センチくらい切ったの?」と四条君に聞かれたので、「そこまでいかない、七センチかな」と私は、ほとんどない前髪を摘んだ。
昨夜、お風呂に入る前に、突発的に前髪を切った。
最初は、二センチくらいだったと思う。
でもそれじゃ、全然足りない気がして、どんどんと切っているうちにこうなった。
昨日、国府田君をエサにして逃げてしまったことに、私は罪悪感を感じていた。
たとえそれが、国府田君の指示だったにせよ、そういった状況を招いたのは自分だからだ。
自分を戒めたかった。
もう、こんなことはしないように。
あんな思いを、人にまでさせてしまったことが、嫌だった。
「三矢さんのその前髪って、そこはかとなく昭和の香りが漂っているよね」
路地裏で石蹴りしていそうな。
「へぇ、国府田君。男の子でも、石蹴りしたんだ」
私の周りでは、石蹴りはもっぱら女の子しかしていなかった。
「以知子に付き合って」
もう膝が、がくがくなるほどやったよ、とうんざりした顔で国府田君が言う。
「あぁ、岡村さんと幼なじみなの?」
それは知らなかったなぁと言うと、「うん、あと、ここにいる夢も」と国府田君は伍代君をつついた。
「えっと、じゃ、四条君は?」
「ぼくは、伍代と入院仲間」
「え? 入院?」
ぱっと伍代君を見ると、居心地が悪そうな顔をしていた。
「ぼくが骨折して入院したときに、伍代もいて」
あぁ、なるほど。
「病院の小児科病棟で、会ったんだよ」
「四条君が、小児科……」
「三矢さん、四条だって人の子なんだから、そりゃ小児の時もあったでしょ」
「はは、ごめん」
「……でも、充分でかかったぞ、四条は」
ぼそりと伍代君が言う。
「うん、あの頃はまだ、でかいだけ、だったもんねぇ」
四条君が、伍代君に視線を向けた。
「今だって、たいして変わんないだろ」
伍代君が渋面を作ると、反対に四条君は笑った。