表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/67

29

 連れて行かれたのは、駅の裏ではなく、駅の側にあるドーナツ屋さんだった。


「とりあえず、三矢さんの奢りね」

 なにがとりあえずなのか不明だけど、次回がないことを祈りながら、大人しく二人分のドーナツと三人分の飲み物を頼んだ。

 ドーナツが二人分なのは、私のお財布事情だ。


「で、なんで?」

 なんで言ってくれないの? とAさんに言われる。

「約束したよね」

 約束っていうのは、双方合意のもとに行われるものだと思っていたけど。

「それって酷くない?」

 酷いか酷くないかと聞かれたら、彼女たちにしたら私は酷いのだろうから、何も言えない。

「紹介してくれるって言ったよね、双葉君を」


 まるで黙りの伍代が降臨したかのように、私は何も言えなかった。

 私が何を言ったところで、彼女たちは受け入れないだろうとわかっていたから。

 彼女たちが欲しいのは、双葉との場を設けるという、私の言葉だけだから。

 もしかしたら、双葉と知り合ってすぐなら、そんな軽いことも頼めたかもしれない。

 でも、なんだろう。

 そういったことを頼むのは、ちょっと違うんじゃないかなって思ったのだ。

 大袈裟かもしれないけど、自分の保身のために友だちを売るような気持ちになったのだ。


 双葉は友だち。


 全く、なんてことだろう。

 まさか、自分が「二股双葉」に対して、そんな風に思うなんて。

 でも、それは理屈じゃないんだ。

 そう思ってしまうんだから、しょうがない。


「あれ、三矢さん探していたよ」

 ひらひらと手を振りながら、なんと双葉が現れた。

 私もぎょっとしたが、目の前の二人もそれ以上にぎょっとしたようだ。


「あれ、確か葛原さんと保品さんだよね」

 そうそう。そういうお名前だった、さすが暗記の神。

 名前を呼ばれると、二人とも顔を赤くした。

 こうしていると、本当にかわいい女の子たちなのだ。


 「三矢さん、四条がさ、三矢さんに聞き忘れたことがあるなんて、寝ぼけたことを言いだして」そこの駅で待っているから、悪いけど今すぐ行ってくれる? と双葉は言った。

 そして、私を席から立たせると、「これもらっていい?」と私のドリンクを指した。

 話の流れとして、頷くんだろうが。

 ……が。

 私が頷いたとして、双葉はこの先、どうしようというのだろう。

 「じゃあ、三矢さん。また明日ね。四条によろしく」

 双葉は、立っている私にバイバイと手を振ってきた。

 そして女の子たちに、「ってことで、ぼくが三矢さんの代わりに、お茶してってもいいかな」と告げたのだ。


 二人は、ぼーっと双葉の顔を見た後、ぶんぶんと勢いよく首を上下に揺らした。


 まさか、これって。


 双葉が、あっちいけあっちいけ、と手で私を追い払う仕草をしてきた。

 思わず、何歩か後ずさってしまう。

 でも、そんなわけにはいかないと、前に進もうとした私のおでこに、何かが飛んできて当たった。


「あ~、ゴミ箱に入らなかったかぁ」

 机の上の紙ナプキンを丸めたものを、双葉が私に投げたのだ。

「やだぁ! 三矢さんに当たったみたいよ」

 嬉しそうに、葛原さんだか保品さんが言う。

 これは、帰れってことだ。

 双葉は、本気だ。



 私はおでこを押さえながら、くるりと踵を返すと、挨拶もせず足早に店を出た。


 駅には当然、四条君はいなかった。






 電車の席は空いていたけど、座らなかった。

 開かない側の扉の前に立ち、徐々に暗くなる外を眺めていた。


 ふいに映った扉のガラスには、悔しそうな顔して泣く誰かさんの顔があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手 by FC2

cont_access.php?citi_cont_id=270017545&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ