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「話の最中に悪いんだけど、『三匹のくま』の場面ができたから、見てもらっていい?」
伍代君と私が、やるやらないの話をしている間にも四条君は自分の仕事を着実にやっていたようで、さっきまでは真っ白だった紙には、出来立てほやほやの物語が紙芝居仕様に展開されていた。
これで候補作の全てが、場面割となった。
「上演予定日から逆算してさ、それまでに何作くらいが仕上げられると思う?」と、双葉が四条君に聞いた。
「そうだねぇ。場面の絵が確定されれば、下絵はどんどん描けるし。一話につき十二枚が目安だから、今日から始めて土日があれば、一作分の下絵はできるかな」
「となると、次は色塗りかぁ……」
「ねぇ、そういえば気になっていたんだけど、色って何で塗るの?」
「そりゃ、あるもので」
「ん? あるもの」
「うん、お金ないからさ。普通にみんなが持っているものやろうと」
「そっか。うん、そりゃ、そうだよね」
ってことは?
「あのさ、三矢さんは絵具とか色鉛筆とか持ってる? もしないなら、俺とかあるからそれ使ってもらってもよくて。つまり、道具はさ、各自が家からあるものを持ってきて、で、ここで作業をしようと思っているんだ」
「そうそう。幸い部室もあるから、道具はそのまま置いておけるしね」
双葉がにやりと笑っているのがわかったので、そっちは見ずに「で、色塗りってどれくらいでできるかなぁ」と四条君に聞いた。
四条君は頷くと、「紙芝居の絵について、みんなに見てもらいたいんだけど」と、一冊の本をカバンから取り出すと、付箋のついたページを開いた。
四条君の見せてくれた本には、同じ場面を表現した二つの絵が並んでいた。
右の絵は、部屋の中で椅子に座ったおばあさんがいて、その部屋の様子も隅々まで描かれていた。
左の絵は、お婆さんが椅子に座る姿が中心にあり、部屋の様子はその近くだけが描かれていた。
「右が絵本で、左が紙芝居だよ」
「……あ、そっか! 違うんだ」
勿論絵本も、左の絵のような表現もあるけれど、比較的右側が多いと思う。
「見ている時間の違いかぁ」
双葉の言葉に、頷く。
絵本は、子どもがいつでも好きな時に、好きなページを、好きなだけ眺めていることができる。
一ページの中に、落ち葉があったり、木の実が落ちていたり、その近くに虫がいたりなど、物語の本筋とは関係ない絵を発見する楽しみがある。
けれど紙芝居は、読み手と見る側の呼吸で物語が進んでいくので、一枚の絵を眺め、そこから情報を得る時間は、絵本のそれに比べると短いのだろう。
ぱっと見た時に、伝えたい情報がダイレクトに伝わる表現が、絵本より紙芝居に多く求められているように思えた。
「うん。だから、十二枚といっても、全力投球するような描き込み方や色の塗り方じゃなくていいと思うんだ」
「……四条君、勉強したんだね」
「当日は何もできないからね」手話とか手話とか手話とかと、四条君が伍代君を見る。
伍代君が椅子の上で、もじもじとしだす。
「あぁ、つまり色塗りは」
「うん。みんなで毎日やれば一週間。でも土日はできないから、余裕をもって二週間もあれば大丈夫でしょ」
来週の月曜に、下絵完成。
そして色塗りに、二週間。
で、紙芝居……完成?
「それと並行して、三矢さんは場面の台詞のチョイスと、ト書きを決めてもらえるかな」
「台詞はともかく、ト書きはちょっと、自信ない」
うーん、と四条君は考えると、伍代君と双葉にじゃんけんをさせた。
勝ったのは双葉だった。
「双葉は、三矢さんのアシスタントね」
双葉は、手を握り、自分が出したグーの形にすると、「よろしくリーダー」と言った。