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 家に着いたときには、頭の中は自己嫌悪で既に一杯だった。

 もう、溢れそうです。


 「三匹のくま」の世界にどっぷりとつかり、物語を仕上げるつもりだったのに、そんな気にもなれない。


 言い訳が全くできないほど、私が悪い。


 ついつい、余計なお世話なんかをする資格は私にはないのに、してしまった挙句の……ドツボ。

 ぐったりして、さらにため息をつきながら家に入ると、「ミチカちゃんが来てるわよ」なんてことをお母さんが言ってきた。


 平日に、ミチカが来るのは珍しい。

 おけいこ事や、友だちと遊んだりで、昨今の小学生は芸能人なみに忙しかったからだ。


 でも、キッチンを覗いてもリビングへ行っても、ミチカの姿はなかった。

 あれれ、と思っていると、お母さんは無言で人差し指を立て、二階を指した。

 あ、私の部屋か。

 了解の意味を込めて頷くと、お母さんからトレイに載せたジュースとお菓子のセットを、渡された。


「ミーチカ、ただいま」

 部屋を開けても、ミチカの姿はない。

 おやおや、と部屋の中まで入ると、なんとミチカは私のベットに入って眠っていた。

「まるで、ゴルディロックスだ」

 「三匹のくま」の女の子よろしく、ミチカは私のベットで眠っている。

 顔を覗き込むと、明らかに涙のあとと思われる筋が、左右の目の下にできていた。

 私はミチカが起きないように、自分の部屋着を取ると、そのまま洗面所へ向かった。



「あ、そよちゃん?」

 もぞもぞとミチカが動く音がしたので、振り向く。

「うん、起きた?」

 ミチカは、うんと言いながらベットを下りた。

 そして、私の腕をくぐると、目の前にあるパソコンの画面を読みだした。

「ええと、あれ。『さんびきのくま』?」

 腕の中にいるミチカに「新作だよ」と言うと、途端に瞳が輝いた。

「今度のお話会でやるの?」

 お話会は、最低月に一回はするようにしていて(そのくらいのペースでないと新作が用意できないので)、次回はまだ先だ。

「お話会でもやるかもしれないけど、これは紙芝居用に作っている物語だよ」

「紙芝居?」


 そっか。

 ミチカは知らないか。


「うん。この間お話会に来たお兄さんがいたでしょ。あの人たちが、紙芝居を一緒に作ろうって言ってきてね。私は、物語を作る係なんだ」

 そう説明するとミチカはふーんと言った後、「お兄さんは、何をするの?」ときた。

「お兄さんねぇ。……うーん、多分。絵に色を塗る係だと思うよ」

 とりあえず、そう答えておく。

「ミチカも塗りたいなぁ」

 ミチカ、ぬり絵得意だし、とアピールをしてくる。

「そういえばそうだね。でも、これ、高校でやることだから、ミチカにはお願いできないかも。そのかわりさ、紙芝居を持って、ミチカの学校に行くと思うよ」

 伍代君が、ミチカの校名も出したことを思い出す。


「そよちゃん、ミチカの学校に来るの? あ、それって水曜の『図書室で遊ぼう』かも」

 ミチカの説明によると、隔週の水曜日は『図書室で遊ぼう』というのがあり、お母さんたちの読み聞かせや、地域の人がペープサートや、歌の会などを開いてくれるそうだ。

「高校生の人も来たよ」

 訊くと、他校の生徒が(ミチカの説明を聞くとボランティアサークルのようだが)、紙芝居の上演をしたらしい。


「ミチカ、それって、図書館にあるような物語? それとも私が作るような物語?」

 つい不安になり訊くと「図書館にある、昔話とかだと思う。でも、ミチカは知らない話だったけど」との答えがきた。


 ミチカが知っている物語なんて知れているけれどと思いつつ、そのあらすじを聞くと既存のもののようだった。


 ほっとした。

 伍代君の顔が浮かんだ。


 ――誰も知らない物語をやりたい。


 約束云々はともかくとして、伍代君の気持ちが少しわかった気がした。



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