24
家に着いたときには、頭の中は自己嫌悪で既に一杯だった。
もう、溢れそうです。
「三匹のくま」の世界にどっぷりとつかり、物語を仕上げるつもりだったのに、そんな気にもなれない。
言い訳が全くできないほど、私が悪い。
ついつい、余計なお世話なんかをする資格は私にはないのに、してしまった挙句の……ドツボ。
ぐったりして、さらにため息をつきながら家に入ると、「ミチカちゃんが来てるわよ」なんてことをお母さんが言ってきた。
平日に、ミチカが来るのは珍しい。
おけいこ事や、友だちと遊んだりで、昨今の小学生は芸能人なみに忙しかったからだ。
でも、キッチンを覗いてもリビングへ行っても、ミチカの姿はなかった。
あれれ、と思っていると、お母さんは無言で人差し指を立て、二階を指した。
あ、私の部屋か。
了解の意味を込めて頷くと、お母さんからトレイに載せたジュースとお菓子のセットを、渡された。
「ミーチカ、ただいま」
部屋を開けても、ミチカの姿はない。
おやおや、と部屋の中まで入ると、なんとミチカは私のベットに入って眠っていた。
「まるで、ゴルディロックスだ」
「三匹のくま」の女の子よろしく、ミチカは私のベットで眠っている。
顔を覗き込むと、明らかに涙のあとと思われる筋が、左右の目の下にできていた。
私はミチカが起きないように、自分の部屋着を取ると、そのまま洗面所へ向かった。
「あ、そよちゃん?」
もぞもぞとミチカが動く音がしたので、振り向く。
「うん、起きた?」
ミチカは、うんと言いながらベットを下りた。
そして、私の腕をくぐると、目の前にあるパソコンの画面を読みだした。
「ええと、あれ。『さんびきのくま』?」
腕の中にいるミチカに「新作だよ」と言うと、途端に瞳が輝いた。
「今度のお話会でやるの?」
お話会は、最低月に一回はするようにしていて(そのくらいのペースでないと新作が用意できないので)、次回はまだ先だ。
「お話会でもやるかもしれないけど、これは紙芝居用に作っている物語だよ」
「紙芝居?」
そっか。
ミチカは知らないか。
「うん。この間お話会に来たお兄さんがいたでしょ。あの人たちが、紙芝居を一緒に作ろうって言ってきてね。私は、物語を作る係なんだ」
そう説明するとミチカはふーんと言った後、「お兄さんは、何をするの?」ときた。
「お兄さんねぇ。……うーん、多分。絵に色を塗る係だと思うよ」
とりあえず、そう答えておく。
「ミチカも塗りたいなぁ」
ミチカ、ぬり絵得意だし、とアピールをしてくる。
「そういえばそうだね。でも、これ、高校でやることだから、ミチカにはお願いできないかも。そのかわりさ、紙芝居を持って、ミチカの学校に行くと思うよ」
伍代君が、ミチカの校名も出したことを思い出す。
「そよちゃん、ミチカの学校に来るの? あ、それって水曜の『図書室で遊ぼう』かも」
ミチカの説明によると、隔週の水曜日は『図書室で遊ぼう』というのがあり、お母さんたちの読み聞かせや、地域の人がペープサートや、歌の会などを開いてくれるそうだ。
「高校生の人も来たよ」
訊くと、他校の生徒が(ミチカの説明を聞くとボランティアサークルのようだが)、紙芝居の上演をしたらしい。
「ミチカ、それって、図書館にあるような物語? それとも私が作るような物語?」
つい不安になり訊くと「図書館にある、昔話とかだと思う。でも、ミチカは知らない話だったけど」との答えがきた。
ミチカが知っている物語なんて知れているけれどと思いつつ、そのあらすじを聞くと既存のもののようだった。
ほっとした。
伍代君の顔が浮かんだ。
――誰も知らない物語をやりたい。
約束云々はともかくとして、伍代君の気持ちが少しわかった気がした。