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「え? あ、紙芝居のサークルに?」
あぁ、なんだ入部、じゃなくて、入サークルの希望者か。
「あ、うん。それは嬉しいな。人数多い方が、これからなにかといいだろうし」
色塗りとか、やることはいくらでもある。
そっか、なぁんだ、紙芝居に興味があったのか。やれやれ。
「でもね、だったら私じゃなくて、伍代君とか、岡村さんもいるし、そっちに行った方が通りが早いと思うよ」
何しろ、私だって入りたてのほやほやだから。
あ、だから私に、声をかけたのかな。
かけやすかったのかもしれないな。
「今度ね、水曜日だよ。明日の水曜日。場所はねーー」
「ねぇ、それって、大変?」
女の子Aの問いに、びっくりする。
「え? 大変って、それどんな意味?」
「ん。だから、週に何度も集まったりとか、作業があったりとか」
「そりゃ、紙芝居を作ったり、それを病院や小学校でやるんだから、それなりにすることはあると思うけど」
なにを当たり前のこと聞くかなぁ、と首を傾げる。
「そういったこと、しなくちゃダメ?」
ダメって、あなた。
「だって、そういったことをしたくて、入るんでしょ」
そう言いながら、そういったことをしたいわけじゃないんだ、と察した。
ということは、やっぱり私が最初に感じた通りの、双葉目的なのかなぁ。
「うーん。私個人としては、理由はどうであれ、クラブなりサークルに入るのは、ありだと思うけど」
何かをはじめる時、そこに崇高な理由がないとダメなのだとしたら、それは窮屈な世界だ。
動機はともかく、やるうちに何かが見えてくることって、あると思うから。
そうは、思うんだけど……。
「サークルだから、入りたいって思う人は誰でも入れると思うよ。ただ、入るからには、なにもしないってわけにはいかないと思うんだよね。特に、このサークルに関しては」
頭の中に、伍代君の顔が浮かぶ。
私が入ると言ったときの、あの顔を。
伍代君は、紙芝居の上演をすることに、強い思いがあるようにだった。
私は、伍代君と握手をしたとき、それを強く感じた。
当然、私は、伍代君と同じ思いでも、熱さでもない。
けれど、私なりの誠実さを持ち、このサークルと関わりたいと思ったんだ。
「入るなら、やっぱりそれなりの作業はあると思うけど。でも私も入ったばかりだし。もし詳しいことを聞きたいなら、伍代君に聞いた方がいいと思うよ」
言葉を慎重に選ぶ。
これは、私が判断していいことじゃないと思ったから。
彼女たちをどうするかは、伍代君が決めたほうがいい。
「三矢さんは、なにをするの?」
「うん。私のすることは、物語を書くことだけど、それが終わったら絵に色を塗ったりとか、できることは全部しようと思うよ」
「あ、そういえば、文芸部だったっけ」
「うん」
それきり二人は黙ってしまった。
もう私に用はないよねと、柱はキープしつつも、じりじりと後ずさる。
「あ、あのさ。余計なお世話かもしれないけど。もしかして、その……国府田君と仲良くなりたいのなら、わざわざサークルに入らないで、直接誘えば?」
国府田君一人を誘うのがアレなら、伍代君とか四条君にも、声をかけてさ。
「あ、四条君、甘いもの好きだから、そういったことでつれるかもよ」
四条君は今度私に、おすすめの最中をくれると言った。
それを、今から楽しみにしているんだけど。
「だったら、それ、三矢さんがしてよ」
女の子Bが言うと、「言い出した人がやってよね」と女の子Aが言った。
いや、別に私は、三人とお茶なんかしなくて、いいっていうか。
「頼んだから」
そんな捨て台詞と、自分たちのクラスと名前を告げると、彼女たちはやけに威張って去っていった。
「あ、あれれ」
あれ?
なんで、こんなことに?
――余計なお世話かもしれないけど
あぁっ!
なんてことを、言っちまったんだ!
自業自得とは、この様なり。
ああ、もう! と、自分自身に腹が立った私は、柱に向いパンチをした。