21
大ぐまと小ぐま。
「どっちに興味があるわけ?」
思考が遮られる。
双葉だ。
双葉を見る。
こいつは、中くらいのくま。
「あ、そっか。『三匹のくま』だな」
「……それ、トルストイの?」
「あ、トルストイが原作ってわけじゃないよ、あれ。日本では、トルストイの翻案が有名だかからね」
「三匹のくま」は、ロシアの民話だ。
ある日森に迷った女の子「ゴルディロックス」が、三匹のくまの留守中に彼らの家に入り、大、中、小のスープを飲んだり、椅子に座って壊したり、挙句の果てにはベットで寝ているところを見つかり、すたこらさっさと逃げる物語だ。
伍代君に四条君、そして双葉とこうして部室にいると、私はゴルディロックスになった気分になった。
あの物語を読んだ時。
そう、あのあと三匹のくまは、どうしただろうってことと、女の子だってあのまま逃げちゃいかんよな、ってことだった。
私なら、壊したものがどうなったか気になるし、できるならそれを修理したいと思うから。
あ、これ、使えそう。
でも、そもそもあんなことしちゃうゴルディロックスは、少し甘えんぼうでわがままな子かもしれない。
そんな子が、スープを作ったり、壊した椅子を直したり、できるだろうか。
そうだ。
出来なかった子ができるようになったとき、自分のしたことが、とても相手の迷惑になったと知るのだ。
知ったらどうするか。
謝りに行くだろう。
椅子を直したり、スープを持って行ったりするだろう。
でも相手はくまだ。
怖いに決まっている。
だったら、くまがいない時に、それらのことをするのはどうだろう。
でもって、念のために――。
「――さん。三矢さん」
大丈夫? と双葉に聞かれたので、「妄想していた」と答えた。
妄想っていうより、想像? それとも創造?
「え、夢と四条で?」
双葉はそんな怪しいことを言うと、顔をしかめた。
ふーん。
「うん。そうだよ。あの二人を見てちょっと妄想をしてたの。で、二人じゃパンチがないんで、そこに国府田君も含めてね」と中くらいのくまに言うと、すっごく嫌な顔をされた。
誓ってもいい。
双葉は、私がそっち系の妄想をしているって、思っているに違いない。
なんつーこと考えるんだろうね、この男は。
うんにゃ。
もしや、して欲しいのだろうか?
「あの、つかぬことをお伺いしますが。国府田君って、女の子が好きな人だよね」
双葉にそう訊くと、「今までの歴史では、そうでした」と返ってきた。
ふむ。
そうか、そうか。
しかし、その歴史とやらは、さぞ激動であったことでしょうよ。
「ご苦労様です」と私が言うと、「とんでもございません」と双葉が言った。