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「一枚目が題名で、一枚目についてのコメントは、最終ページの裏にあるんだ」
紙芝居は、勿論見たことはあったけど、こうして作る側として現物を手にしたのは初めてだった。
紙芝居の裏は面白い。
そこは、上下にわかれていた。
上には、主に台詞。
そして下には、その台詞の読み方の指示が書かれていた。
指示には、「大きく」、「小さく」、「はやく」、「ゆっくりと」といった朗読をするときの声の調子が書かれていた。
こういった指示があるってことは、読みかたにメリハリが必要だってことだろう。
話を作れば「はい、おしまい」じゃなくて、こうしたことも決めていくんだろうな。
それに、場面に合わせた台詞のチョイスも必要だ。
つまり、一度書いた物語を、今度は紙芝居用の脚本に起こし直すってこと。
四条君の絵との兼ね合いもある。
むむむ。
ってことは、どんな順番で作業すればいいんだろう。
うーん。
頭が熱くなってきた。
紙芝居を作るってことを、甘くみていたなぁと思う。
ふと、出来るんだろうか、と不安になった。
「これ、紙芝居の紙」
穏やかな四条君の声とともに、私の目の前に「紙芝居キット」なるものが置かれた。
「開けていいの?」と聞くと、四条君が頷いた。
大きくしっかりとした紙の封筒の中に、真っ白な用紙が入っている。
十二枚セットとあるので、そうなのだろう。
ということは、十二枚までで物語を終わらせることが、一応の目安か。
その用紙は、表は真っ白だけど、裏には既に台詞や指示が描きやすいように罫線があって、それに従い書けばいいようだった。
さっきまでの途方にくれ具合が、少し弱くなった。
頭の中でいろいろと想像すると不安になるけど、こうして現物が目の前にあって、するべきことが見えてくると楽なんだな。
しかし。
「ねぇ、そういえばこの紙代、どうしたの?」
高いか安いかさえわからないけど、無料ってことはないだろうから。
気がつくと私は四条君の答えも待たずに、「私も払うし」と言っていた。
「三矢さん、落ち着いて落ち着いて」
双葉だ。
「お金のことは大事だけど、先生にも相談しながらやっているし」
ねぇ、夢と双葉が伍代君に振る。
「そ、そう。うん。サークルとはいえ、学校で行う活動だから担当の先生もついているし」
「……その担当が、山中先生か」
私の突っ込みに、また伍代君が黙る。
「ちょっと、国府田君。今の伍代君への振りって、意地悪だったよね」
私からの突っ込みが入るのがわかっての、計算が見えた。
「国府田君って、いじめっ子だね」
すると、「お互いね」と双葉からの軽やかな返しが来た。