16
「約束?」
「うん」
それきり黙ってしまった伍代君のフォローを、ほかの三人の誰もする気配はない。
どうなってんの。
うーん。困った。
「……ええと、つまり、誰も読んだことがない物語を、紙芝居で見せると約束した、と」
「うん」
おおい! 誰か、フォーローは!
「ええと、伍代君。それは、誰に約束をしたのかな?」
まるで、ミチカたちを相手にしているような気持ちになる。
「えっ。俺、言わなかったか」
「うん、夢。言ってないよ」
双葉がようやくフォローした。
伍代君はきょとんとした顔の後、いきなり笑顔になった。
「そっか、そっか。それは悪い。約束をしたのは、入院している子どもたちなんだ」
伍代君はそう言うと、病院名も告げた。
「あと、そこから退院して近くの小学校に通っている奴らもいるんで、その小学校とか」
伍代君が名前を挙げた中には、ミチカが通う学校もあった。
なんでも話はついているとかで、あとはブツさえできればGO! ってな状況らしい。
「そっか。うん、まぁ、なんとなくわかったけどさ……」
そっちの事情は、わかったような気がするけど。
「くどいようなんだけど、なんで私? どこでどうして、私に白羽の矢が立ったのかな」
伍代君が、また黙ってしまう。
今から彼のことは、だんまりの伍代と呼ぼう。
そして伍代君が黙ってしまっても、フォローしてこない三人も三人だ。
こうしてこの場にいるわけだから、少しくらいは何かを知っているだろうに。
はぁ、というため息が沈黙を破る。
岡村さんだ。
「もう、しょうがないなぁ。あのね、私が夢に言ったの。三矢さんがいいんじゃないのって。一年で同じクラスだったから、三矢さんがそういったことができる人って知っていたから」
岡村さんがそう言うと、伍代君はぎこちなく頷いた。
ふーん。
岡村さん、からか。
「そっか。でもさぁ、だったらなんで伍代君が来なかったの? 国府田君じゃなくて」
「あ、それは、つまり、双葉が行った方が、ことがスムーズに運ぶと思って」
ふーん。
スムーズねぇ。
「で、伍代君はさ、随分と物語にこだわりがあるようだけど、私がどんな物語を書くかは知っているの?」
すると伍代君は、またまた黙ってしまった。
……知らないんだろうな。うん。
物語のことで双葉を殴った伍代君と、なのにあまり私の書く物語を知らないその姿にギャップを感じる。
もやもやとする。
「味のわからない店のクリスマスケーキは、怖くて買えないもんな」
ゼリーを食べ終わった四条君がそう言うと、
「あ、わかる。私も自分の声を見こまれてアナウンスを頼まれるのと、上手いんだからやって、とかそういったザックリとした依頼をされるんじゃ気持ちが全然違うし」と岡村さんが言った。