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「三矢さんは、物語を書く人だろ。子どもに向けてのものを書く人だろ」
伍代君が必死な顔で私を見てきた。
その必死さにどうしていいかわからず、視線が泳いでしまった。
「そりゃ、まぁ、私が書くのは子ども向けのものだけど」
だけど。
「そんな、伍代君が言うような、オリジナルかって聞かれると、それは微妙に違うっていうか」
ねぇ、とついつい双葉に応援を頼んでしまう。双葉は、今朝、私の物語を聞いた証人だから。
「おもしろかったよ、三矢印の『北風と太陽と雲、時々おかん』」
双葉のネーミングセンスに唸る。
私はリリーさんかよ、とつっこみつつ、実はそういったネーミング、嫌いじゃない。
好きだ。
「あの、違います。『北風と太陽と雲』です」
シンプルです、シンプルと私は言った。
「『おかん』は、なしかぁ」と岡村さんが言う。
「でも、話には、おかんが出てきたよ」と双葉が言う。
はいはい、出てきましたとも。
「ふーん。『北風と太陽』ってイソップの?」
四条君に聞かれ頷く。
四条君の声って、優しいな。
「それのアレンジか。おもしろそうだね」
アイスを食べた四条君は、ゼリーに手を伸ばした。
うっ、ちょっと。
見ているだけで、胸焼けがしてくるんですが。
「あのさ、質問してもいい?」
伍代君に向かい聞く。
「私が物語りを書く人だからってことでも、なんで? つまり、なんでオリジナルにこだわるの? そんな面倒なことしなくても、いくらでも名作と呼ばれる物語はあるでしょ」
なにもわざわざ、私の物語を紙芝居にすることはないと思う。
意味がわからない。
「どの物語にしていいのかわからなくて、それでオリジナルにしたいっていうんなら、いい物語を選ぶ手伝いをするよ?」
でもそうなると、私よりも図書委員で適役の子がいる。
その子を紹介してあげても、いいかもしれない。
「だめなんだ。ともかく、そのままはだめ」
伍代君がそう言うと、またみな、お通夜のように沈んだ表情になった。
「なんで」
何に拘っているのか。
意味がわからん。
「それは、そういったことをする奴らは、既にいるから」
悔しそうな声で、伍代君は言う。
「そりゃ、いるっでしょうよ。っていうか、フツーそうだよ」
伍代君は、いったい何が言いたいのか。
「だから、他の奴がやっているようなことは、したくない」
はぁ?
「なんで」
伍代君が、ごくんと唾を飲む。
「約束……してしまったから。誰も知らない物語を届けるって、約束を」
伍代君は机の上の紙コップを、睨むようにして言った。