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夜の町をさまよい歩いたり、補導されたり、そこで不良に絡まれてミステリアスなクラスメイトに助けてもらったり。
岡村さんの語るそれは、結構面白そうだ。
「嫌いじゃないけどな、そういった話」
そう私が言うと、岡村さんも「実は私も嫌いじゃない。その人たちの原稿、すっごく楽しく読んだし」と笑った。
「でまた、すごいのよ。そのクラスメイトっいうのが。実は某国の情報部員で、情報活動中に主人公を助けたってわけよ。ロマンスでしょ」
「う、うわぁ、尊敬する。そんなドラマチックな話、私には考えられないもん」
童話メインの私からすると、それは神の領域だ。
「ふふふ。二人で考えて、一生懸命書いたみたいなんだけどさ。でもさ、紙芝居なんだよね、お子さま向けの。紙芝居の原稿を頼んだら、情報部員がでてきてさ」
それを読んだ夢が激怒して、双葉ともみ合いになって、それを見ていた三年生が泣き出して、夢に殴られた双葉がよろけて、三年生がそれを助けようとして鼻をうって。
――鼻血が出たらしい。
「もしかして、それが流血事件の真相?」
「そう。まぁ、そのあとにね、鼻血を出した彼女たちに双葉が駆け寄ったら『きゃー! 近づかないで!』って血のついた手で双葉をビンタして」
そりゃ、まぁ、鼻血を出している姿を、王子様みたいなこの男に見られたくはないわな。
乙女心としては。
「噂って、本当のことと随分と違って流れるもんだしね」
「そうなのよね。でもね、その人たちが双葉のことが好きで、もめていたのは事実だから」
「ねぇ、双葉」と岡村さんが言うと、「まぁ、人の心は、どうにもできないからねぇ」と双葉が答えた。
どうにもできない想いなんて、こいつには縁のない悩みなんだろうなと思うと、途端にその人達が気の毒になった。
「事前に、どんな話を書くか確かめなかったの?」
私の問いに、伍代君が項垂れ、双葉は肩をすくめた。
そうか、確かめなかったのか。
それって、どうなんだろうと思う。
書き手としては、確かめてくれよ、と思う。
書いた揚句、その物語のことで他の人が揉めるなんて嫌な話だ。
まぁそもそも、紙芝居にそんな話を書いちゃうのも、アレレなんだけど。
双葉は、伍代君に殴られたのか。
そしてそのあと、血まみれのビンタ。
「国府田君って、弱いんだね」
「んー。まぁ、あのときは、たまたまね。それに、ぼくだって男の子だから、やるときはやりますよ」多分ね、と双葉が言った。
ふーん。
「で、伍代君。なんで私に声をかけてきたの?」
「うっ。まだその話が終わっていなかったか」
そう言うと伍代君は、「絵本にする物語は、オリジナルがいいんだ」と言った。