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「太陽は、ぽかぽかとした日差しを親子に送りました。

すると、女の子にマフラーをあげ、寒い思いをしていたお母さんの顔が、笑顔になりました。

あたたかくなって、ほっとしたのですね。

その笑顔を見た太陽は、もっともっと喜んでもらいたくて、ぽかぽかの日差しをたくさんたくさん送りました。

ぽかぽかぽか。

すると、どうしたことでしょう。

お母さんの顔から、笑顔が消えました。

女の子が立ち止りました。

お母さんもつられて止まります。

女の子は、ぐるぐると巻かれたマフラーとコートを脱ぎだしました。

暑くなってきたのです。

慌てたお母さんは、女の子が外したマフラーを自分の首に巻き、女の子が脱いだコートを手に持ち、さらに女の子のぬいぐるみまで持ちました。

マフラーにコートに、ぬいぐるみ。

暑くなったお母さんの顔は、おさるさんのように真っ赤っかです。

汗も、だらだらと出てきました。

とても苦しそうな顔です。

それを見た太陽はしまった! と思いました。

そんな太陽の隣で、次は私の番ですね、と雲が言いました。

雲は、太陽と親子の間にすっと入ると、陰を作りました。

すると、お母さんの赤かった顔は元通りになりました。

女の子もお母さんが持っていたコートを着て、クマのぬいぐるみも自分で持ちはじめました。

二人は顔を見合わせると、くすくすと笑いだしました。

なんだか変なお天気だったわね、とお母さんが言うと、変な天気だね、と女の子も言いました。

そして二人はもう一度、くすくすと笑ったのです。

そのとき初めて、お母さんは、女の子が持つぬいぐるみに、風車がついていることに気がついたのです。

お母さんは女の子の頭をそっと撫でた後、少し屈み、ぬいぐみが持つ風車へ、ふぅと風を送りました。

クルクル。

風車は回ります。

それを見た女の子は、自分でもふぅと息を吹きかけました。

クルクル。

風車が回ります。

女の子の顔が、笑顔で輝きます。

それを見たお母さんの顔も、笑顔になりました。

お母さんは思いました。

このお天気なら、急いで洗濯物を取り込まなくてもいいわね。

それに、夕飯の買い物だって、考えてみたら昨夜ゆうべのシチューがまだ残っていたじゃない。

お母さんは女の子と手を繋ぎました。

そして今度は、女の子の歩く速さに合わせて、ゆっくりと歩き出したのです」



 聞いている子たちの顔も、物語の女の子と同じように輝いている。



「ずるいずるい、雲さんずるい! 

突然、大きな声がしました。

北風です。

北風はそう言って怒りだすと、雲に向い風をびゅうと吹きました。

だってだって雲さんは、ぼくと太陽さんが寒くしたり暑くしたりしたから、勝てたんでしょ。

ってことは、ぼくたちがいないと勝てないってことでしょ。

そう思わないかい、太陽さん! 

雲の勝ちだと思っていた太陽も、北風の話を聞いているうちに、それもそうかもしれないなぁと思い始めました。

でも、何かが引っ掛かります。

……ええと、うん。でも。

太陽は一生懸命考えます。

そして、自分たちが、寒くしたり暑くした親子を思い出しました。

待って、待って、北風さん。

私は、この勝負に勝ったのは、やっぱり雲さんだと思います。

北風さん、思い出して下さいよ、あの親子のようすを。

太陽に言われて、北風も一生懸命に思い出しました。

そして、わかったのです。

雲があの親子二人に、笑顔を与えたことを。

北風は、女の子のことしか考えませんでした。

そして太陽は、寒そうなお母さんに気がいってしまいました。

けれど、雲はお母さんと女の子、二人のことを考えたのです。

二人を笑顔にしたのです。

北風と太陽は、雲に謝りました。

何にもできないと思って馬鹿にしていた雲に、謝ったのです」


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