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勝敗

 その時カズヒコは、ようやく腕時計の異変に気がついた。

「――時間が5分戻ってる? ……どういうことだ?」

 再び塀に目をやると、アキラはすでにそこにはいなかった。

『しまった!』

 カズヒコは指笛を響かせた。その音は学校中に響き渡る。当然、牢屋へ救出に向かっていたアキラにもその音は聞こえていた。

「指笛? なんのつもりだ……」

 アキラは不審に思う。しかしこれが警察側最後の策、全員を牢屋へと召集するカズヒコ最終手段だ。それはこのゲームが始まる前、作戦会議で話した電波障害に備えたものだった。

カズヒコも遅れて牢屋へと戻ろうとするが、その途中、意外な人物を目撃する。

「カズヒコ、今の指笛って牢屋へ戻れの合図だよな?」

 そこにいたのは牢屋の見張り役だった。

「なぜ持ち場を離れている?」

「なぜって、さっきオレに北門へ来るように言ったろ? トランシーバーで」

 なにかがおかしい。アキラを追うようになってトランシーバーの調子が悪い。しかし今は牢屋に戻る事が先決だ。カズヒコは牢屋へと急いだ。


 一方、アキラは牢屋が見える所まできていた。当然見張り役は誰もおらず救出には絶好のチャンスだ。しかし時間が無いのも事実、迷ってなどいられなかった。牢屋まで急いで駆け出すアキラの間反対からカズヒコの指笛で召集された追跡班がアキラに気づき、猛スピードで駆け寄ってきた。その距離五分と五分。互いに足は速い方だ。


 間もなくゲーム終了のゴングが鳴る。勝負の結果は――

捕まった泥棒7人のうち4人をアキラが救出し、捕まえた数3人、逃げ切れた数5人でアキラチームの勝ちである。ゲーム経験の差が結果として出てしまった。

「オレの勝ちだな……」アキラはカズヒコの横に立ち肩をポンと叩く。「でもまぁ、初めてにしてはよくやった方だ」

 カズヒコは考え込むように、手に持っていたトランシーバーを凝視していた。学級委員の合図で皆が教室へ戻りはじめると、アキラも再びヘッドホンを耳に当て教室へと戻ろうとする。その時、カズヒコがトランシーバー越しに小声でつぶやいた。

「……おいアキラ」

「ん?」

 電波ジャックをしたまま、ヘッドフォン通してその声を聞いたアキラは、まるで耳元でささやかれたかのような錯覚を起こし、思わず振り向いてしまった。しかし意外にもカズヒコは十数メートル離れた後方にいる。

『しまった』と思うアキラ。普通ならこの距離から小声でつぶやかれても誰も聞こえるはずがない。ましてやアキラはヘッドフォンをしていたのだから尚更だ。考えられる事は、『ヘッドフォンから聞こえる声』である。カズヒコはアキラのその反応にニヤリと口を歪ませた。

『まさか……もう電波ジャックの可能性に気づいたとでも言うのか!?』アキラが思う。しかしそれ以降、カズヒコはその能力について深く詮索してこなかった。

 

 やがてアキラとカズヒコはお互いにライバルと意識し合うようになる。テストの点数や学校の給食早食い競争、バレンタインに貰うチョコレートの数など互いに張り合っているうちに、学業においてはアキラがカズヒコに引っ張られるカタチで成績を上げていき、現在同じ高校に通う事になった。


 そしてさらに一年の歳月が経った今、アキラはこの喫茶店でマキとサトミを前に当時の事を話している。

「考えてみたらアイツのおかげなんだな……今の高校合格したの」

「それならもっと感謝してくれてもいいんだがな」

 アキラが振り向くと、いつから話を聞いていたのかそこにはカズヒコが立っていた。

「遅れてすみません。あ、アキラ鞄そっち置けるか?」

 カズヒコはアキラに鞄を渡し、その隣に座るやいなやメニュー表を眺め始めた。

「それで……探偵さん、早速で悪いんだけど教えてもらえるかしら? 今日ここへ呼び出した理由」

 サトミは机の上に身を乗り出し、少し声を張り上げて言った。気のせいか後ろを気にしているようにも見える。

「……そうですね、では早速本題に移りましょう」

 そう言うとカズヒコはメニュー表を閉じ口を開いた。

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