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ケイドロ

 ゲームスタートから10分、追跡した警察チームから無線で泥棒を1人捕まえたと連絡があった。そのまま牢屋につれて来るように指示を出すカズヒコ。

「あと7人……」

 カズヒコがつぶやく。

「7人ってまさか全員捕まえる気じゃ……」

 見張り役は言った。

「アキラは捕まった泥棒を全員解放させるんだ……ならオレは逃げる泥棒を全員捕まえるまでさ」

 カズヒコはニヤリと笑うと、ベンチから立ち上がる。

「オレも現場に行く。見張りは任せた」

 ついにカズヒコが動いた。ゆっくりと歩いているが、その足取りに迷いは感じられない。その光景はまるで何かの後をたどるように。そう、小野村カズヒコは軌跡感の持ち主。警察犬よりも嗅覚が鋭く、人や物が通ったニオイの軌跡を見ることもできる。つまりカズヒコにとってこのケイドロは、泥棒に糸をつけて泳がせているようなものだった。あとはこの糸を手繰り寄せれば、行き着く先に獲物はいる。

「なるほど、ここから階段を上ったか……」

 しばらくすると無線からカズヒコの声が飛ぶ。追跡する警察にそれぞれ指示を出しているうようだ。その指適切な判断と指示により次々と泥棒は捕まり牢屋に入る。見張り役はその光景を目の当たりにし、驚きを隠せなかった。残り時間15分、牢屋の中は7人。これまでこんなに早く捕まえられた事があっただろうか。

 しかしその中にアキラの姿はなかった。残りの一人は当然アキラだ。そんな中、見張り役はふと不審に思った。それは捕まった7人の泥棒の中に、カズヒコが捕まえてきた泥棒が一人もいなかったからだ。

「あくまでアキラを追っているということか」

 間もなくカズヒコから次の指示出された。

「追跡班全員に通達、残り一人、アキラを捕獲する。北門へ向かえ!」


 一方、泥棒側のアキラは残るところただ一人。得意の電波ジャックでヘッドフォンから状況のすべてを聞いていた。そのおかげで、警察側の動きも手に取るようにわかる。

「おいおい、北門って言ったらまさにここじゃないか。オレの居場所が見えているのか?」

 アキラは辺りを見回してみるが、カズヒコの姿は見えない。

「それにこんなに早く7人も捕まえるとは、小野村カズヒコ……何者だ?」

 このままでは泥棒の過半数以上が捕まったままで、アキラチームは負けてしまう。勝つには、チャイムが鳴るまでに救出に向かわなければならない。アキラはなんとか救出する方法を考えていた。

「……全員を牢屋の見張りにつける気配もないな」

 アキラはヘッドフォンを外した。戦いの時が迫っている。その時誰かが近づいてくる気配を感じた。

そこには小野村カズヒコの姿があった。お互いの距離約10メートル。互いに睨み合ってそこから動かない。カズヒコも迂闊に手を出せないのには訳があった。それはアキラが今いる場所が塀の上だからだ。カズヒコから見て塀の向こうへと逃げられたら、迂回しなければならない。

「よくこの場所がわかったな、カズヒコ」

「ああ、オレに追えないモノはない」

 そう言いながらカズヒコは腕時計をチラと見た。ケイドロ終了のチャイムが鳴るまであと4分。もうそろそろ召集をかけた追跡班が来てもいいころなのだが。

「――なにを待っている?」

「アキラ、お前の負けだ。どんなに急いでも塀の向こうからでは牢屋へ行くまで5分はかかる。かと言ってこっちに降りればオレがお前を捕まえる。それに、追跡班全員に召集をかけた。包囲されているハズだ」

 カズヒコの言葉にアキラは声を上げて笑った。

「包囲されているハズ? 変な事言うんだな。その追跡班はどこにも見当たらないが?」

 カズヒコは辺りを見渡してみるが、アキラの言うとおり誰も見当たらない。その直後カズヒコのトランシーバーから他の追跡班の声がした。

「カズヒコ、言われた通り南門に来たが、アキラが見当たらない。お前はどこにいる?」

「南門……だと?」

 カズヒコには彼らの言っている言葉の意味が分からなかった。確かに、北門へ向かえと言ったはずだ。しかし彼らは南門にいるというのだ。

「――なぜ?」

「通達ミスじゃないのか?」

 アキラはまだ笑っている。

「そんなはずはない。……しかしアキラ、お前が追い詰められている事に変わりはない。残り時間3分……お前に救出する時間はない」

「……カズヒコ」

「なんだ?」

「その時計、ちゃんと合っているか?」

カズヒコはもう一度時計に目をやる。

「生憎だが、オレの時計は狂い知らずの電波時計でね。合ってないはずがない」

 アキラはもう一度大きく笑ってみせ、カズヒコを指差した。

「オレはよく狂う電波時計を知ってるぜ?」


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