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探偵和彦

「マジかよ……探偵?!」

 クラスの一人が声を上げた。

「では小野村君、席はあの隅……宮嶋アキラ君の前の席を使ってください」

 アキラの座っている席の前に小野村カズヒコが来る。

「おや……いい匂いがしますね」

 カズヒコはアキラの方を見て言った。アキラは今朝食べた一晩寝かせたカレーの事を思いだす。

「ああ、カレー好きなのか?」

「……?ああ、カレーは好きだよ」

 これがアキラとカズヒコが交わした最初の言葉だった。転校生というものは来たその数日間はチヤホヤされるものだ。ある日の昼休み、カズヒコの机の周りに男女問わず人だかりができていた。

「小野村、お前ホントにすごいな!なくしたと思ってた自転車の鍵見つけてくれるなんて」

「小野村君、昨日私の傘なくなっちゃったんだけど……」

「俺はシャーペンなくしちゃってさ」

 数日も経てばカズヒコの探偵としての才能はすでに皆に認められていた。

「これなら今度のケイドロが楽しみだな」

 クラスの一人が突然そう言った。後ろで聞き耳を立てていたアキラが少し反応する。カズヒコもその言葉に反応を示した。

「ケイドロ?」

「ああ、転校してきたばかりの小野村は知らないかもしれないけど、この学校ではクラスで定期的にケイドロをやる伝統があるんだ。しかも今では本格的に警察側はトランシーバーを使ってるんだぜ」

「へえ…それは面白そうだな」

「ただ、このクラスには泥棒側のエースがいるんだ……」

 そう言ってアキラの方に視線を向ける。その視線に釣られてカズヒコもアキラの方を見た。

「その逃亡ぶりと鮮やかな泥棒救出劇に俺たちはヤツをこう呼んでいる……怪盗アキラ!」

 実は当時、アキラはこのケイドロにおいて伝説的な記録を作りだしていた。それは一度も捕まることなく、捕まってしまった見方の泥棒を最後には全員開放するというものだった。それができたのはこのケイドロの特徴でもあるトランシーバーがあったからだ。電波を操るアキラにとって、トランシーバーは敵の行動を思いのままに操る事ができる有効アイテムだ。警察同士の情報のやり取りをジャックし、その会話を撹乱させる。その受容端末としてアキラは常にヘッドホンを首にかけていた。

「ふふっ……もしカズヒコが警察側に就いた所で、オレを捕まえる事は出来ないさ」

 アキラは鼻で笑って自信満々にそう言った。

「そうか……それは宣戦布告というやつだな」

 カズヒコの探偵としての血が騒いだ。この二人のやりとりを聞いていたクラスの連中が、異様なまでの盛り上がりをみせる。

「怪盗アキラVS探偵カズヒコだ!!」

 この噂はたちまち他のクラスにも伝わっていく。


 そして戦いの幕は切って落とされた。警察側を任されたカズヒコチーム8人と、泥棒側のアキラチーム8人。勝敗は警察が捕まえた泥棒の数で決まる。時間内に最低でも半数以上、または全員を捕まえれば警察チームの勝ち。それに満たない場合は泥棒チームが勝つ。時間は昼休み終了のチャイムが鳴るまで。メンバーの全員にルールの確認がとられた。

「では警察側の人はトランシーバーを取りに来てください」

 審判の学級委員がトランシーバーの入ったダンボールを持ってきた。警察側全員にトランシーバーが渡ると、最初の3分は泥棒側に逃走時間が与えられる。その間、警察側のカズヒコ達は牢屋となる校庭の前で作戦会議をしていた。

「それではリーダーのカズヒコ君、今日は君が警察側の指揮を執ってください」

 審判の学級委員は言った。

「わかりました。では警察の皆さん、これまでのケイドロの内容がどうだったのか簡単に話してください」

 カズヒコは皆に尋ねた。そこで分かった事は、これまでのケイドロはアキラによって逆転されたゲームが殆どだったという事だ。

「過半数を捕まえた所で、全員を牢屋の見張りにつけては?」

「それもやろうとしたが、過半数を捕まえた所でトランシーバーに呼びかけても応答がないんだ。電波障害? かなんかで、結局集まらない」

 その話を参考にカズヒコは警察側の皆にある策を与えた。

「なるほど、そういうことか。注意すべきは宮嶋アキラただ一人だな……」

 カズヒコは腕時計に目を向けた。まもなく3分が経過する。

「時間だ。作戦通り牢屋に見張りを一人残し、あとは追跡する」

 カズヒコの指示で警察が散った。

「あれ? カズヒコは行かないのか?」

 牢屋の見張り役が言った。

「……しばらく様子を見る」

カズヒコは校庭のベンチに腰を掛けた。


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