交差
この町と隣町とをつなぐ交差点、一角にその喫茶店はある。店の広い窓から見える風景は、普段ならば穏やかなものだ。
しかし、今日は昨日あった事故の影響でバリケードができており、その情景を壊している。マキとサトミは時折この場所で待ち合わせをし、これまでにもいくつかの事件や事故を未然に防いできた。この町にある桜夜学園高校に通うマキと、隣町の甘倉高校に通うサトミにとってはこの喫茶店に集まるのがお互いに便利な場所となっている。
「でも、まさかこの店の前で事故が起こるなんてね」
サトミは一足先に、喫茶店で紅茶を飲みながらマキ達が来るのを待っていた。昨日と同じ席から事故の有様を見ていたサトミの目に、遠くから走ってくるマキの姿が映る。しばらくすると店の戸が開き、ベルの音がした。
「ごめんサトミ、待った?」
息を切らしながらマキが店内に入ってきた。
「いや、考えごとしてたからそうでもなかったよ。……それより昨日のストーカーはマキの学校の生徒だって?」
「ええ、しかもそのうちの一人は私と同じクラスだった」
「ふふっ、そういうとこマキらしいよね。普通気づくでしょ?」
サトミは笑いを堪えるようにして言った。
「ところでサトミ、今日はどういった用件で?」
マキはメニュー表を手に取り眺めながら言った。サトミは飲みかけのティーカップをソーサーに置く。
「その事なんだけど、今日は私もここへ呼ばれたの」
「え、誰から?」
「昨日撒いたと思っていたストーカー、実は今朝家の前にいてね」
「怖いね……信用できるの?」
「わからないけど、今日はそれを確かめようと思ってね。……それに私達の力を知っている」
「まさか」
マキとサトミがそんなやりとりをしているうちに再び店の戸が開く音がした。
「おい、雛菊マキ!」
そう言って喫茶店に入ってきたのは宮嶋アキラだった。マキとサトミはどうしたものかとアキラの方へ視線を向ける。
「ちょっと、そんな大きな声出さないで」
マキは小声で、それでいて聞こえるようにアキラに言った。席に着こうとするアキラをじっと目で追うサトミ。
「はじめましてストーカーさん。私はマキの友人の白羽サトミです」
「あ、どうも宮嶋アキラです。」
互いに自己紹介をするアキラとサトミ。サトミという名を初めてを耳にしたアキラにとって、彼女が予知メールを送信した本人であることを改めて確信した瞬間だった。
「それにしても、ここへ呼び出した張本人が遅刻だなんて信じられないわ」
懐中時計を眺めながらサトミは冷めてしまった残りの紅茶を飲み干した。
「張本人って……小野村カズヒコの事ですか?」
アキラはサトミに尋ねた。
「ええ、宮嶋君は彼のお友達かなにか?」
「はい、中学の時からの友達……というよりはライバルでした。」
「ライバル?」
マキとサトミは声を揃えて言った。
「そうです。とはいってもケイドロの……なんですけど」
アキラは少し照れながらそう言う。『ケイドロ』とは鬼ごっこの一種で、逃げる側の泥棒と追う側の警察とで分かれて、チームを組んでグループで遊ぶ一種のレクレーションだ。アキラの通う中学では定期的にケイドロをして遊ぶという伝統があった。
「小野村カズヒコがオレの通う中学に転校してきたのは、確か中2の時――」
その頃の事を思い出すアキラ。
宮嶋アキラ、当時十三歳。中学2年生。
「今日はこれからみんなと一緒に勉強していく転校生を紹介します。入っておいで」
アキラの担任の先生が教室の扉の方にむかって手招きをした。扉が開くと、新品の学ランを荒々しく着こなした男が立っていた。アキラはその外見から、とんでもない不良が来たものだと思った。
「小野村和彦です。探偵をやってます」
その見た目とは裏腹に丁寧なあいさつをやってみせた。