召集
マキは教室に戻ると、平常心を装って次の授業の準備を始めた。先ほどまで一緒に話していた女子達はマキが帰ってきた事に気づいたのか、コソコソ話している。そのうちの一人がマキに話しかけてきた。
「ねぇマキ。宮嶋君なんだったの? まさか……告白されたとか?」
「まさか……」
一瞬マキは考えた。このまま『告白』を否定してしまえば、次に来る質問は何だろうかと。好奇心旺盛な彼女達は、そのままマキを詮索して話すまで帰してはくれないだろう。そこで真実を話すわけにもいかない。もしそうなった時、どうやってごまかすのが簡単か。答えは出ていた。それは『告白』を否定しないことだった。
「実はね……」
「うそ!? ホントに?」
周囲が勝手に盛り上がるのを感じ取るマキだった。否定した所で、最終的には『告白された』と嘘を言っていただろう。マキの頭の回転の良さが幸いし、真実を詮索される事はないだろう。
「でも……妙ね」
マキはその言葉にドキッとしたが、あくまで平常心を装う。
「ん、何が?」
「だってマキだよ? 今までだって何度も告白されてきたのに、今さらこの恥じらいは……」
マキは息を呑んだ。自分の演技がわざとらしすぎたのか、『告白』が嘘だということがばれたら、告白なんかよりももっと重要な事を隠していることがバレてしまう。世の中には目敏い人間がいるものだ。
「マキ、あなた……宮嶋君のこと好きなんじゃないの?」
一瞬空気が凍りついたが、その言葉を聞いてほっとするマキ。自分の中でひどくツッコミを入れていた。『ついさっき同じ学校の、同じクラスだと知った人間のことを?』
「返事どうするの?」
「まだわかんない」
『告白』の嘘をやみくもにしているうちに、次の授業のチャイムが鳴る。同時にマキの携帯のバイブレーション音がなった。机の死角で携帯電話を取り出すマキに、再びサトミからのメールが届いていた。メールの内容は今日の放課後、再びあの喫茶店に集合する事だった。その内容からいつもの予知メールとは別件であることを察する。
「なんだろう……今日のは予知夢とは違うみたいだけど」
サトミに返信メールを打とうとするマキ。
「雛菊さん、授業中ですよ」
「あ、すみません」
数学の先生から注意され携帯をしまった。教科書を机に出しながらふとアキラの事が気になったマキは、本人にバレないようにチラとその席に視線を向ける。うかつにも目が合ってしまった。マキを見るアキラの視線は酷く冷めていた。
放課後、帰りの準備を整え席を立とうとするアキラの前に、マキが腕を組んで立っていた。
「あなた、まさか帰るつもりじゃないでしょうね?」
「オレは部活にも委員会にも入ってないし、残る理由なんかないからな……ってゆうか気安く声をかけないんじゃなかったのか?」
少し考えてマキは口を開いた。
「……私からはいいのよ」
「はぁ?(なんて自分勝手な女だ)」
「そんな事より、昨日の喫茶店覚えてるでしょ? 今日の放課後あの場所に集合。サトミがあなたも呼んでって」
「今日の放課後って……今から?」
「ええ、どうせヒマなんでしょ? それじゃあ私先に行ってるから」
「え? あ、ああ」
マキは一足さきに昨日の喫茶店へ向かった。
「――なんだよアキラ! いつのまに雛菊とそんな仲になったんだ?」
友人のシュウがアキラの肩に手を置きながら言った。シュウはアキラと一年の時から同じクラスだった男だ。思えばアキラがマキの噂を初めて耳にしたのもシュウからだった。
「お前……一年の時は雛菊の話しても興味なさそうな顔してたくせに! ……返事はどうだったんだよ?」
「返事? なんだよそれ」
「告白したんだろ?」
「はぁ? 誰がそんな事を?」
「女子が言ってた……雛菊本人から聞いたって」
「なんだって!?」
アキラは鞄を抱えて教室を飛び出し、喫茶店へ急いだ。