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予知メール

 それは幼い頃、手に取った一通のメールがきっかけだった。彼、宮嶋明ミヤジマアキラにはパソコンや携帯から飛び交うメールを肉眼で見ることができる。つまり、電波が見え、またそれに触れる事も出来るのだ。当時それが当たり前だと思っていたアキラだったが、友人との会話の中でこれは他人には見えないものだということに気づく。自分はどこか他人とは違う力を持っている。このことを親や友人、先生にも言ってみたが誰も子供の戯言を信じることはなかった。アキラは自分に電波が見える事を証明しようとしたが、ある考えが頭を過ぎった。

『他の人には見えないメールを覗き見る事ができる……これは面白いのでは?』

アキラは自分の力で出来る事を考え巡らせた。人が送ったメールを捕まえて中を覗く事、またそのメールの文面を書きかえる事もできる。この瞬間、電波ジャッカー宮嶋明が誕生した。


アキラが高校へ進学して二年目の春、周囲の環境は一新される。一年目とは違うメンツで、その中でうまくやっていかなければならない。中にはおなじみの顔もあったが、アキラにとって再び人間関係を築きあげるのはわけもなかった。アキラには周囲の人間が送ったメールを覗き見ることが出来る。それだけでその人のキャラクターがつかめるし、誰とどのような関係なのか、どんな家系で家族は何人いるのか、恋人の有無まで知ることができる。そうやって世間をうまく立ち回ってきた。


 ある日、アキラは屋上で一通の謎のメールを手にした。その内容は未来を予知するもので、時間と場所の約束が記されていた。学校の誰かに宛てられたものだろうか。差出人は『サトミ』宛名には『マキ』と書いてあった。

「サトミにマキ? 誰だろう……」

宛名の『マキ』のほうはこの学校の誰かだろうが、フルネームではないためアキラには特定できなかった。そのメールをリリースすると、本来届くべき所へ戻っていく。アキラはマキという人物が誰なのか気になった。

その日の午後の事、授業中に一人の女子が席から立ち上がった。

「どうしました? 雛菊さん」

「先生、体調が悪いので早退します」

「またですか?」

皆が彼女に視線を向ける。アキラもまた彼女の後姿を見ていた。雛菊という名前をどこかで聞いたことがある。

「確か名前は雛菊……雛菊真姫ヒナギクマキ

雛菊真姫といえば校内では誰もが一度は耳にした事がある名だ。頭脳明晰、容姿端麗、才色兼備だがサボリの常習犯のため総合成績は悪い。しかしテストでは文句なしでトップのため先生も何も言えず頭を抱えている、ある意味での問題児だ。アキラは噂に聞く彼女が同じクラスにいる事を初めて知った。名前こそ知らなかったが、確か上品で気のやさしい子だ。

「あの子が雛菊真姫だったか……マキ?」

同時に予知メールの宛名が『マキ』だった事を思い出す。

「あのメールは雛菊真姫に宛てられたメールか?」

そう直感したアキラは教室の時計に目を向けた。この学校からメールに記されていた場所へ行く時間を逆算すると丁度約束の時間になる。彼女を追えば謎の予知メールの正体が明らかになるかもしれない。

「先生!……」

アキラは彼女を追って早退した。


アキラが下駄箱を出ると、一人の男が待ち伏せていた。

「お前も彼女の行動が気になるのか?」

そこにいたのは中学の二年の頃同じクラスだった小野村和彦オノムラカズヒコだった。彼は探偵でアキラとは友人であり互いに様々な事を競い合ったライバルでもある。

「お前も?」

「サボリの常習犯の彼女がいったい何をしているのか気にならないか?」

カズヒコはそう言うと彼女の後を追う。アキラもその後に続いた。

「彼女……何かあるのか?」

アキラはそう尋ねると、カズヒコは問い返した。

「お前は彼女がどこへ行くと思う?」

「……喫茶店『交茶コウサ』」

アキラは思わずメールの場所をつぶやいてしまった。カズヒコはその返答スピードとピンポイントさに少し驚いている。カズヒコは鋭い男だ。下手をすればアキラの能力を見抜きかねない。それが常識では考えられない力であっても。

アキラは話題を変えた。

「――しかし、雛菊さんがあの容姿じゃオレ達ストーカーと間違えられるかもな」

「ふっ、お前はな……オレは探偵だ」

カズヒコは無駄に自信満々にそういって見せた。


雛菊真姫を追って数分後、それは丁度メールの約束の時間。彼女はその場所にたどり着いた。

「当たったな……知っていたのか?」

カズヒコは尋ねた。さすがにメールを覗き見したとは言えないアキラはそれを否定する。アキラ自身、メールの宛てられた人物が雛菊真姫だった事に驚きをかくせなかった。アキラとカズヒコは茂みに隠れてマキを見張る。数分後、その喫茶店に現れたのは別の学校の女子高生だった。彼女の名前は白羽里見シラハサトミ

この子が予知メールを送った人物だろうか。

「あの子と待ち合わせしてたみたいだな……ホントにただのサボリか?」

マキとサトミは喫茶店でお茶とお菓子を食べている。

「オレの勘が外れたかな? 事件のニオイがしたんだが」

カズヒコはそう言うとその場を離れようとした。

「あと十分……待ってみよう」

アキラは予知メールの内容を知っている。メールの内容はこうだ。

『四時二十五分、桜夜北交差点で事故。対象、小学生三人を保護する。』

もしこの予知が正しければ十分後に何か事故が起きるはずだ。

しかしその事はカズヒコにはまだ言えない。アキラは真実を確かめようとしていた。

「おい、アキラ見ろ! 動き出したぞ」

残り時間五分にさしかかった時、マキとサトミは動き出した。辺りを見回している。その時アキラの前を三人の小学生が横切った。ちょうど下校時刻のようだ。マキとサトミも、その小学生たちに気がついたのか歩み寄ってきた。

「そこのボクたち? 喫茶店でアメ玉もらったんだけどいらない? おねいちゃんたちおなかいっぱいで」

サトミが小学生たちを引き止めたその時。

『ドン!』

近くでものすごい音がした。交通事故が起きたのだ。車が歩道に乗り上げ、電信柱に突っ込んでいた。あのまま小学生を引き止めていなかったら、小学生三人とも巻き添えを食らっていただろう。アキラとカズヒコは目を丸くして顔を見合わせた。アキラは腕時計を確認する。サトミのメールの予知通り、時計の針は四時二十五分を指していた。


事故現場に人だかりができはじめると、マキとサトミはその中に姿を消した。

「あの二人、まるであの場所で事故が起こるのを知っていたようだな」

そう言うとカズヒコは茂みから立ち上がった。

「どこへ行く?」

「アキラ、二人を追うぞ。事件のニオイだ」

カズヒコは目の前の事故には目もくれず二人を追い始めた。探偵の血が騒いでいるのか、嬉しそうにしている。アキラもまた予知メールの事が気になっていた。

マキとサトミは早々とその場を離れていく。その人ゴミの中で、マキは誰かの視線を感じ取っていた。

「マキ……気がついているかもしれないけど、私たち誰かにつけられている」

サトミもまた、アキラとカズヒコの存在に気がついていた。

「私たちの事がバレている?」

「わからないけど、どこかで撒く必要があるわね……追っ手を分散しましょう」

「わかった。後でメールするね」

マキとサトミはその場で解散し、別の方向へと歩き出した。

「――アキラは雛菊の方を頼む」

「おいちょっと! ……マジか?」

カズヒコはサトミを、アキラはマキを尾行した。



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