手首店長
私のバイト先の店長は手首だ。
何を言っているのかわからないかもしれないが『手首』としか言いようがない。
店長は指先でいつも指示を出す。
まあ、手首だから指先でしか指示を出せないのはしょうがないことだとは思う。
採用面接で初めてここの店長に会った時は驚いた。
「あっ、ここの店長は手首なんだ」
そう思った事が強く記憶に残っている。
常に人手不足の飲食店だからなのか、それとも口がないからなのか。手首店長はすぐに採用時の書類を渡してきた。
そして指先でサイン欄を指さしていた。
「サインしろということなのね」
何も言わない店長は面倒くさくなくて最高じゃん、と思ってすぐにサインした。
でも、それはそれで店長は面倒くさい手首だった。
ここまで面倒くさい手首が存在するとは思わなかった。
今では肩を叩かれることに恐怖さえ感じてしまっている。
大学の友達に肩を叩かれると、ぞっとしてしまう。
でも、店長は手首しかないので人に気付いて貰うには肩を叩くしかないことも理解はしている。
理解だけだけど。
他にも方法はあるんじゃないかなと思う。
今日も店長は指先で従業員に指示を出している。
まったく忙しい手首だと思う。
ここまで忙しい手首は他に居ないんじゃないかな。
セルフオーダー機の使い方がわからないお客さんのために飛んで行く手首の姿が見えた。お客さんも飛んでくる手首を見て驚いている。
店長は画面を指さしている。
ここをタップしろということらしい。
何事もお客さんが第一の店長で素晴らしい店長だとは思う。
でも手首なんだよなあ、と今日も私は思うのであった。
(了)




