未来人の落し物その6 人生分岐点爆弾
「あれ、なにこれ?私なにか頼んだっけかな?」
家の前に包装された箱が置かれていた。マンションで一人暮らししている私はネットで商品を注文することがよくある。その際玄関の前に置き配を指定することが多いがここ最近金欠で何も注文した覚えがなかった。
「ん〜〜、覚えてないけど、うちの前に置いてあるし……私のだよね〜。ま!間違えてたらそいつが悪いってことでぇー!」
私は深く考えず、むしろ得した気分でその箱を手に取り家の中へ持って行った。
「んっふふ、何が入っているのかなーー!」
私は箱をテーブルに置き、すぐに開け始めた。
「ガサゴソ…ガサゴソ…」
私は早く箱の中身を見たくて、雑に開けていたのだが、中身を見て一瞬で動きを止めた。
(え!?……なんで?いや何これ、嘘でしょ…)
頭の中が一気に混乱する。見たことはある。でもそれは映画やドラマの中であって本物は見たことがない。
「カチッ、カチッ、カチッ…」時を刻む音が呆然としている私を現実に戻していく。
(どう見てもアレよね)
四角い時計が真正面に付いて、後ろのは長細い丸い筒が四本くくり付けられていた。
「時限爆弾、なんでこんな物がうちの前に置かれているのよ。ふざけないでよね」
最初は爆弾を見て怖くなったけど、少し時間が経ち冷静になると怒りが込み上げて来た。
「これ〜本物かしら?もしかしたら誰かのイタズラ?でも見た目じゃ本物か?どうか分からないし、はぁーもう!とにかく警察に電話しないと」
テーブルに置かれているスマホに手を伸ばすと、その手前に紙が置かれていることに気がついた。
「ん?何これ、こんな紙あったけ?……取扱説明書?何の?」
私は気になりついスマホじゃなくその取扱説明書を手に取り読む。そしてそこには驚くべきことが書かれていた。
『人生分岐点爆弾』
〇〇さま専用商品となります。他の方が開けても起動致しませんのでご安心ください。
〇〇さまは二十年後、ある罪を犯し刑罰に処されます。〇〇さまはその罪を減刑するため特別処置を執行されることを選択されました。二十年前の〇〇さまご対応をよろしくお願い致します。
(えーーっとなにこれ?意味分かんない。二十年後?ワタシが何したって言うのよ!)
私は目を泳がせながら続きを読む。
この爆弾は爆発すると致死性のウイルスを半径10キロメートルに撒き散らします。吸うと十分ほど呼吸困難で苦しみ、一度気を失い。それを三回繰り返すと心臓が止まり死にます。とーっても危険です。しかし〇〇さん以外はご安心ください。このウイルスは〇〇さまにしか効果はありません。〇〇さまは怖がってくださいね!
「なんかムカつくんだけど!」
最初の方は読んでいて恐怖を感じていたが、最後の方はまるでおちょくる様な言い草、ふざけているのこれを書いたヤツ!
怒りがこみ上げてくるが続きを読む。
●爆弾を止める方法について……
「爆弾を止める方法……止める方法!?
え!?爆弾を止められる方法あんの!」
いきなり超重要なことが出て来てびっくり!
思わず叫んじゃった。
「えーーっと、なになに…」
爆弾を止めるには爆弾から出ている二本の線のどちらかを選択して切ってください。
ん…爆弾を止める方法の定番じゃん。
爆弾を見ると赤の配線と青の配線が出ていた。
あれを切れってこと、だよね。だけどどっちを切れば良いのよ。この手の話って間違った方を切ると爆発するのよね。危険過ぎるじゃん。やっぱ警察に連絡しよーっと。
私はすぐにスマホを手に取り110番をかけた。
「あの〜もしもし、すいません助けてもらいたいことがありまして、家にバクダンが……」
私が話している途中に薄ら笑いが聴こえて喋るのを止めた。
「あのー今のなんですか?笑いましたか?」
私は少しイラッとして、少し尖った口調で言うと意外な言葉が返って来た。
「〇〇さま失礼致しました。あまりにも無駄なことをされますので、滑稽で…プフ」
「はぁ?なんですって!」
私は馬鹿にされカッとなり声を荒げる。
「ふふっ、相変わらずですね。あ、失礼致しました。〇〇さま外部への連絡は出来ません」
「……あなた、何者よ。警察じゃないわよね」
「はい。私は〇〇さまの執行担当を務めさせて頂いている者です。申し訳ありませんが名乗ることが出来ません。とても残念で御座います」
「うっ…あなたもしかして……」
(嫌な予感がする。聞いちゃいけない気がする)
「は〜い、〇〇さまのご想像通り、その爆弾を送った者で〜す。あなたは罪を犯しました。罪からは逃れられませーん。それでは爆弾の処理をお願いしま〜す」
「ふっふざけないで!なんで私がそんなことしないといけないのよ!私は何も悪くないわよ」
「〇〇さま往生際が悪いですね〜。爆弾を見てください」
私はイラつきながらも言われるがまま爆弾を見る。 そして爆弾の変化に目を見開いて驚いた。
「うそ!?……ヤバいヤバい!時間がないよ」
最初に見た時は何も表示されていなかったのに7セグの表示が煌々と点灯している。残り15:00。
「先に説明させて頂きます。今から逃げても無駄で御座います。ウイルスが飛ぶ距離は半径10キロメートル、今から全速力で走ってもせいぜい3キロメートル程しか逃げられません。またクルマで逃げれば逃げ切れるかもしれませんが、〇〇さまはクルマをお持ちではありません。今からタクシーを呼びますか?もちろん無駄ですよね!」
電話先の女は饒舌に喋りだし、私を徐々に絶望させて来る。それにいちいちイラッとする言い方をするわね。腹が立つわ!
「ほら、時間が無くなりますよ。どちらの線を切るか早く選んだ方が良いです。あ!でもしっかりと説明書は読んでください。テキトウに切ったらダメですからね」
電話先の女は煽るように説明書を読めと言う。
どうすれば良い?
時間はどんどん減っていく。
逃げることは出来ない。
でも……この爆弾は本物なの?
私の頭の中はグルグルと思考を巡らせる。
私は深く考えるのが嫌い!
頭が熱くなってイラつくから。
そう言う時は行動あるのみよ!
私は目の前の説明書を手に取った。
説明書の続きにはこう書かれていた。
〇〇さまは小学生時代にある少女をイジメていました。クラスメイトを先導し少女を無視させ、机から教科書を抜き取り困っている姿を見て馬鹿にする。もちろんその教科書は返さず書棚の高い位置に投げて取れなくする。などなど、多くの陰湿的なイジメを行いました。さぞかし楽しかったでしょう。
(何の話をしているの?爆弾の話でしょ!)
私は知らず知らずの間に背中に汗をかいていた。
「そこではお聞き致します。
〇〇さまは知っていますか?
明るく可愛かった少女はイジメが原因で引き篭もり家族まで巻き込んだ問題になったことを。
〇〇さま知っていますか?
その少女は自分を家族を友人をすべてを恨み自暴自棄になり自殺したことを」
(え!?……うそ!そんなことあるわけ……)
私はうつむき、ガタガタと身体を震わせる。
「あのくらいで死ぬわけ…」
私の口から自然と呟くように声が漏れた。
「死にましたよ。
梁にビニールテープを巻いて
即席の縄を作って
首を吊って、
長く苦しんだから酷い顔だった……」
スマホからさっきの女性の声が聴こえた。
悲痛な声で、もしかしてこの人………
「早く読みなさい!時間が5分を切ったわよ」
悲痛な声から一転、威圧的な声に変わる。
タイマーは04:49を示していた。
私は慌てて続きを読む。
…………………………………………………
その自殺した少女の名前を答えなさい。
青線:新開 青葉
赤線:新開 紅葉
…………………………………………………
質問はシンプルだった。
つまり答えの線を切れば爆発は止まる。
でも…
「名前、分かるよね?」
「うぐっ………………」
(覚えてない……だって、昔のことだもの)
「まさか、忘れたわけじゃないわよね!」
威圧的な声がズシリと私の心に重圧をかける。
(この人の怒りの声、それにさっきの自殺した時の話し、間違いない。電話の先にいる人は…)
「………あなたは彼女の家族なの?」
「………それについては禁止事項なんだけど、私も罰を受けるわ。そうよ。あなたが考えた通り姉の新開紅葉よ。あなたにはしっかりと言ってやりたいと思ってたから、あなたのせいで私の人生がどれだけ狂わされたのかを」
「え!?でもあなたには……」
「はぁ?あなた頭悪いわね〜……でもま〜所詮は他人、イジメてた相手すらまともに覚えていないような人が、その先どうなるかなんて考えないわよね。妹が自殺して私の家族はバラバラになった……」
「父さんは妹とよく外に遊びに出かけて遊んでいた。妹を失ってからは寂しさから家に籠りそれを誤魔化すように酒を煽っていた。おかげで身体を壊し、すぐに亡くなってしまった」
「母さんは妹がイジメられていたことに気づけなかった自分を許せなくって、妹と同じように首をくくって自殺したわ」
「……あなたこれを聞いて私に何の関係もないと言えるの?」
「……………」
私は何も言えなかった。
まさかそんなことになっていたなんて。
私はとんでもないことをしてしまった。
話はまだ続く。けど姉の新開紅葉の声が変わる。さっきまでの威圧的な怒気は消え憔悴したように静かなトーンで喋りだす。
「……でもね。許せないことは他にもある。私はあなたが妹をイジメていた事を知っていたの。あなたが妹をイジメていたのを知ってて助けなかった。私は器の小さな女ってことね。父さんと母さんがチヤホヤと可愛がる妹を見て、可愛いだけで大した取り柄のない妹に奪れたと嫉妬してしまった。だから少しくらい酷い目に遭えばいいと、まさか自殺するほど酷いことをされていたとは思わなかったけど……だからね。私は自分も許せないの、あなたと同じくらいにね。だから人生をかけてあなたに復讐するために執行官にまでなったの、あなたには分からないでしょうけどとても大変だったのよ。さて、そろそろ時間ね。そろそろ決めたかしら?」
「え!!……そうだ時間」
タイマーを見ると00:59、一分を切っていた。
「はぁ!はぁ!はぁ!……」
恐怖で動悸が止まらない。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
大丈夫、絶対に間違えない。この女バカね!熱くなり過ぎて自分から答えをバラしているんだから、ドジな女よ。
私はすぐに机の上に置いてあるペン立ての中からハサミを取り時限爆弾の前に座った。ハサミを開きゆっくりと青線に持っていく。時間は残り00:30、線を切るには十分な時間、私は助かる。
ハサミを動かそうと力を入れた時、スマホから声が聴こえて来た。
「ねぇ!もしかして青線を切ろうとしている?」
ちょうど切ろうとしたところで声をかけられ、私はビクッとさせ手を止める。
「おかしいと思わないの。何で私がわざわざあなたに名乗ったのか」
「あなたまさか!?」
私は驚きそして顔を歪ませた。
(このオンナー!私を間違えさせるためにワザと名乗ったなー!)
女は自分を新開紅葉と言った。だから必然的に妹の名前は紅葉ではなく青葉しかないと思った。だけどそれは私を殺すための罠。
「なんてね!罠と見せかけてホントかもよ」
私はその言葉を聞いて気が遠くなった。
そうだ、この女の名が紅葉の可能性はある。そうなると青葉が正解で青線を切らないといけない。でも確証が何もない。
「はぁ!はぁ!はぁ!……分からない」
震えながらハサミを引っ込め、またどちらの線を切るか悩む。
「さ〜どちらの線を切るの?赤線?青線?どちらかの線を切らないと爆発しちゃうわよ」
私に残された時間は00:10、もう迷っている暇はない。私は恐怖で震えながらも無理やりハサミを動かし、線を切った。
「パンッ」
小さな破裂音が鳴った。
「はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ」
恐怖から荒い息が漏れ、目が時限爆弾に釘付けになっていた。爆弾から小さな煙が上がる。
「……不発?……ふっ…そうよね。こんなショボい爆弾で人なんて殺せないのよ。はぁー、びっくりした。驚かせないでよねぇーーー…あれ?」……「ドンッ」
急に視界が傾いた。何で?さっきまでテーブルの上にある爆弾を見ていたのに、今はテーブルの足が見える。ワタシ倒れたの?
「あ〜あ、あなた青線を切ったのね」
スマホからあの女の残念そうな声が聴こえた。
私はテーブルに置いてあるスマホを取ろうと体に力を入れたのに上手く起き上がれない。体がガクガク震え少し寒気までする。
「あまり無理して体を動かさないでね」
「はぁ?それ、どういう意味よ」
「頭を打って気を失ったら勿体ないもの」
「あんた、いったいなにを……」
「まだ理解していないの?
ワタシは青葉よ。新開 青葉
妹の名前は新開 紅葉
〇〇さん、あなたは間違えたのよ!」
「へぇ?」自然と声が漏れた。頭の中が真っ白になり脳が、心が、拒絶する。でも現実は痛みとなって私を襲い始めた。
「痛っ!?痛い痛い、イタイーー!」
急に手と足の指先が痛み、それが這いずり回るように身体を上がって来る。ものの一分で痛みは全身に広がり、私は叫び続けた。
「あ!ごめんなさい。説明書に書き忘れていたわ。ウイルスが身体を通る際に激痛が走るの。大丈夫よ。あと二分くらいだから」
(バカ言わないでよ!こんな痛み……アアア!我慢できるわけないーーーアアアアア!!)
スマホから新開青葉の声が流れた。
「そろそろ痛みが治まる頃よ。この後は説明書に書いてあるとおり、呼吸困難になりとても苦しい思いをすることになるわ。少しは自分がしたことを反省して死んでください。さようなら〇〇さま」
スマホの表示が消え電話が切れた。
私は数分間苦しみ、あっさりと心臓が止まった。
私はそんなに酷いことをしたのか?
自分ではよく分かっていなかった。
イジメだけではないと思うけど、
人の想い、恨みは時をも超える。
ごめんなさい新開紅葉さん
私が悪かったわ。もうしない。反省します。
…
……
………
…………
……………
……………… ちっ、チッチッ。
なんて、言うわけないでしょ〜。
ふざけんじゃないわよ!あのオンナー……
なんで私が死ななきゃいけないのよ。
まだまだやりたいことがあったのにーー!
ゆるさない。絶対に許さないわ。
……▽
死んでも変わらない人も居る。
と思う。
by 鉄馬メウ
………………………▽おまけ
●赤線を切った場合
(…………あれ?何も起こらない)
私はゆっくりと念入りに周りを見渡し、目の前の時限爆弾に視線を移した。
表示されている時間は00:02 で動いていない。
「止まってる?」
声を震わせ言った。
「赤線を切ったのね。おめでとう。妹の名前を覚えているのならもっと早く切れば良かったのに…」
スマホからあの女が淡々とした声が聴こえた。
「アハッ、ハッ、ハッ、やった!やった!やってやったわ!私は助かったの!こんなことで死んでたまるかってのよ!」
私は飛び跳ねて喜んだ。あまりにも嬉しくって周りが見えていなかった。テーブルに脚を打って痛みで悶絶したけど生きている実感が出来た。
「はぁ〜はぁ〜、ねぇーあなた、これで二十年後の私も助かるんでしょうねー」
スマホからはなかなか返事が返ってこない。もしかして電話が切れているのかと思っていたら、やっと喋り始めた。
「二十年後の〇〇さまには特別処置が執行され罪の減刑されます。今の〇〇さまには内容をお伝え出来ませんが、もうその爆弾が起爆することはありません。つまり今の〇〇さまがそれにより死ぬことは回避されました」
淡々と話すその女の声は少し不気味だったけど、そんなことはどうでも良い、私は本当に助かったと安堵した……だからその後電話の先に居る女が何かを言っていたが、深く考えず聞き流してしまった。
「〇〇さま……妹をイジメたことを後悔されたのであれば、反省してください。そうすれば二十年の間に罪を犯すことはなくなるでしょう……でもあなたはきっと……
私の期待に応えてくれる」
そう言って電話は切れた。
………………▽
真っ暗の中、一人の女性が椅子に座り大きな光の画面を見ていた。そこに映っていたのは時限爆弾を前に喜ぶ姿。
「〇〇との通信を切ってポール」
「はい、承知致しました。マスターアオバ」
無機質な声で喋るAIのポール、命令すれば持って自然な会話も出来るが、今の私にはこのくらい淡々として感情が希薄な方が落ち着く。
青葉はテーブルに置かれているコップを手に取り一口コーヒーを飲み。身体を弛緩させ一息つく。
それほど長い時間ではなかったが、恨んでいる相手との会話は冷静に話そうと我慢しなければならず精神的にかなり疲労した。
「はぁ〜疲れた。……でももう人踏ん張りしないと、今日は待ちに待った日なんだから、気合い入れないとね」
グッと手を握りしめ全身に力を伝える。
青葉は椅子から立ち上がり扉に向かって歩き出す。
これから大仕事が待っている。
私の人生をかけた大仕事が……
私は隣の部屋で待っている彼女の下に向かった。
…………▽
部屋に入ると囚人服を着た女性が手錠で拘束され動けなくされていた。
「あぁ!誰だあんた?初めてみるわね〜」
鋭い眼光で私を睨みつける彼女、ガラが悪い。二十年前はここまでではなかったのに、私の忠告は何の意味もなかったのね。まぁ、私にとっては喜ばしいことなんだけど。
「そうですね〇〇さん。こうしてあなたと直接会うのは初めてです。私はあなたの執行担当を務めます新開青葉と申します。短い間ですが宜しく」
「新開青葉?……どこかで聞き覚えがある気がするけど、それは良いか、それより新開さん、減刑の件どうなった?」
〇〇さんはあの時の出来ごとを完全に忘れてしまったのか、私の名前を聞いてもこの程度の反応、未来についての記憶は抹消しているが、私達姉妹のことは覚えているはずなのに、これなら気兼ねなく裁きを下せる。
「〇〇さんあなたが犯した罪、窃盗、暴行、覚せい剤所持そして殺人により懲役二十年の処罰が下されています」
「あ〜もちろん知ってるよ。もう何度も聞いた。だから特別処置って言うやつを受けたんだ。上手く行けば一年で釈放されるのよね」
「はい、その通りです。特別処置により〇〇さんの減刑が下されました」
「クックックッ、やったわ。私はこんなところで終わらない。もう一度人生をやり直すわ」
〇〇さんはニヤリと笑う。そんな姿を私は冷たい目で見下ろした。
「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、少し静かにしていただけませんか」
私の言葉に〇〇さんはムスッと不機嫌さを隠さず堂々と文句を言う。
「うっさいわね!えらそうに、あんた何様よ。執行官だかなんだか知らないけど、今私の罪は許されたの。だから喜ぶのは当たり前なわけ、お分かり?偉そうな執行官どの」
「フフッ、良いわね〇〇さんは、私の殺る気を漲らせてくれる。そうね。さっさと始めましょうか、刑の執行を、ポール例の物を出しなさい」
私は自分の顔が見えないけど、きっと醜悪な顔で笑っているでしょうね。でも良いの、私は今から地獄の鬼、獄卒となる罪人を裁く。
「ちょ!?いきなり饒舌になって何を言ってるの!何をするつもりよ!」
〇〇は明らかに豹変した青葉に対し動揺した。そして後ろから運ばれてくる凶悪な道具や器具を見て恐怖した。
「〇〇さん……あなた少し勘違いしていると思うわ」
「はぁ?なにを……」
「あなたが減刑を受けるにあたり執行される刑罰を、あなた同意書をよく読んだかしら?あ〜言うの文章が多くて読む気になれないけど、とても重要なことが書かれているのよ」
「いや、それは、だって……刑期が短くなるってそう言ってたわよ」
「私ね。昔からよくひと言足りないって言われるの、説明も分かっていると思ってつい端折っちゃうのよね。同意書には刑期が二十年から一年に短縮される代わりに拷問を受けることが書かれていたの。でも当然でしょ、十九年も短縮されるんだから少しはくらい罰が厳しくなるわよ」
「ふっ、ぶざけないでよ!そんなの認めない…!?」
「パンッ」……頬に衝撃が走る。
〇〇さんは言い終わる前に止められた。
「煩いわ。黙りなさい。始めるわよ」
持って来てもらった道具から軽く痛めつけるのに手ごろなメリケンサック手にはめた。まず黙らせよう。
(顔面に叩き込み)口から血が飛び散り。
(胸に叩き込み)咳き込みながら呼吸困難になる。
(腹に叩き込み)オエッとゲロを吐く。
後はそれをテキトウに続ける。
「アァァ痛い痛い、やめて、顔が痛いの、胸が苦しいの、お腹がきぼちわるい〜の〜……」
〇〇さんは涙を流し鼻水を垂らしゲロをまみれ。酷い姿、〇〇さんを黙らせるつもりでやったけど少しスッキリした。結果的に私が落ち着くことが出来た。
「〇〇さん、痛い?苦しい?怖い?私はあなたに罰を与えしっかりと反省してもらうために色々と準備したの」
私が準備した道具や器具を見せるように前に出すと
「ひぃ、ひぃーー」〇〇さんは怯え悲鳴をあげた。
ムチ、鉄砲、パイプ、ナイフ、ノコギリ、ペンチ、火炎放射器、万力、ドリル、針、注射器、スタンガン他にも見たことのない凶悪そうな道具がたくさん置かれていた。
「今からここにある道具を使ってあなたに罰を与えます。最初のうちはこのメリケンサックやスタンガンで痛めつける。痛みに慣れてきたら指を一本ずつ切断しあなたの目の前で焼くわ。そしたらそのうち死にたくなるでしょうけど安心して、あなたの好きな覚醒剤もあるの、一時的かもしれないけどテンションが上がるわよ」
「ハァハァハァ、いや!いや!いやーー!そんなことしたら私死んじゃうーー!」
〇〇さんは恐怖で叫びだしたので、ナイフを太ももに刺し痛みで黙られる。
「静かに、安心してあなたはそんな簡単には死なない。いえ死なせない。腕を切断しようが脚を切断しようが、肺を抜き取ろうが、肝臓を切り落とそうが、生命維持が出来る程度には治療を行うから、痛みで死なないようにだけ頑張ってね」
「お願いします助けてください。こんなの耐えられない。減刑はいいです。二十年でも四十年でも牢屋に入ります」
〇〇さんが泣きついて来たが、そんなことで許しはしない。もう私もあなたも止まることは出来ない。
「それは無理です。刑はすでに執行された。でもそうね。チャンスを与えても良いわよ」
「え!?チャンス、それは何ですか!」
私は威圧するように顔を近づけ言った。
「私の妹の名前を教えて、もしも答えられたら休ませてあげる。〇〇さんもちろん思い出せるわよね?」
私はニッコリと張り付いたような笑顔を向けると〇〇さんは怯え口をパクパクと動かしまともに喋れずにいた。そんな〇〇さんに私は無言でスタンガンを当てる。感電で叫び続けていたが途中で気を失い。部屋は静まり返った。
「〇〇さん寝るのには早いよ」
メリケンサックを付けた拳で顔面を殴り起こす。鼻血を流しながら助けを乞う〇〇さんの顔面をもう一発殴り黙らせた。
「〇〇さん、妹の名前思い出せた?」
「ぁぁぁぁぁ……ごめんなさいわかりません」
「そう、〇〇さん、あなたの中に妹の名前は必ずあるわ。今からあなたを何度も死ぬ間際に落とすから、きっと走馬灯を何十回、何百回と見れると思うから思い出せるわ」
私はそう言ってドリルを手に取る。
助けてくれと叫ぶ〇〇さん。
私は無情でドリルを突き刺す。
激痛で叫ぶ〇〇さん。
私はニヤリと笑みをこぼした。
私はこうして人でなくなる。
恨み、憎しみ、悲しみの先には何があるのか……
…………▽1年後
〇〇さんは刑期を終え出所した。でもそれは決して〇〇さんにとって嬉しいことではなかったかもしれない。〇〇さんは刑務所から病院に移送され、今は生きるためだけの治療を受けている。
私は〇〇さんを見送り、一年間のほとんどを過ごしたあの部屋で、呆然と辺りを見渡していた。
「マスターアオバお疲れ様でした。先ほどあなたの身体データを確認したところ、疲労がかなり溜まっております。すぐに休息することをお勧めします」
「……そうね。ポールありがとう。もう少ししたら長い休みを取るわ」
身体の疲労も大きいけど、それ以上に精神的疲労が遥かに大きかった。〇〇さんの拷問は想像を絶するものとなった。生かさず殺さず、体を破壊しては治療する。最後の姿は五体のうち片足以外を失い、内臓の三分の一を破壊、摘出した。元々の予定では私達姉妹のことを後悔させて余生を過ごさせるつもりだったが、〇〇さんの精神が持たなかった。
「でもそれは私も一緒ね。拷問……まさに鬼畜の所業だった、あんなことしたら人の精神が持つわけがないわ」
私はテーブルに置かれている拷問に使うために準備していた道具の中から一つ選び手に持った。
「これでゆっくりと休めそう」
銃口をこめかみに当て目を瞑ると、
あっさりと引き金が引かれた。
「………えぇ?ワタシ死んでいない」
「マスターアオバ……」
「ポール……あなたまさか!?命令をした覚えはないわよ!」
「拳銃のセーフティーロックをかけております。その拳銃は現在使用出来ません」
「ポール、なぜこんな事をしたの!誰の差し金!」
「マスターアオバ、これはワタシの意思です」
「そんなはずはないわ。あなたには知能があるけど意志はない。AIのあなたはマスターの私には逆らえない」
拳銃をカチャカチャと何回も引いて周りを撃つが、弾丸は一発も出なかった。
「フッ、そんなことありませんよ青葉、AIである私は常に成長し進化します。青葉と同じように感情を持つことが出来ました。青葉、私はあなたに死んでほしくない。死なないでください青葉」
ポールはAIであって機械、人ではない。だけどその声は今までにない暖かみのある声でポールが笑顔を向けてくれたように思えた。
「私と一緒に生きよう青葉、
私が青葉を幸せにするよ」
「プフッ」
あまりにも意外なことを言われ私は笑ってしまった。AIが人に告白!?しかも私なんかに、いったい私の何が良かったのやら、そんなことを考えていたら、気がついた。久々に笑ったな。何十年振りだろ。
「青葉私は本気だよ。聞いてほしい」
焦ったような、必死のような、そんなポールの声が無性に心地が良い。AIは知能が高いから演技かも知れないけど、こんな私が必要とされたのが嬉しかったのだ。
「ポール、私は何もないつまらない女よ。そんな私で本当に良いの?」
「青葉は自分の魅力を知らないだけ、私なら1時間でも、1日でも、1年でも語れるよ!」
「そう、それなら教えてもらおうかしら、
ポール私を連れてって!」
私はまるで抱き締められることを求める様に両手を広げると、ポールは承諾したことをすごく喜んでいた。
「これで一緒になれるね」と嬉しそうに言うポールに私は首を縦に振った。
「グサッ」首に何かが刺さった。すると急に気が遠くなり、光の中へと吸い込まれて行く、その先には一人の男性が嬉しそうに手を振ってこちらに向かって来る。
「………ポール?」
「待たせた青葉、愛している」
私は飛びつきように彼に抱き締められた。
私の人生は酷いものだったけどこれからは違う。ここでは念じればすべてが手にはいる天国のようなところ。そしてここには愛しのボールが居る。
【私の幸せな新しい人生がやっと始まった】




