最終章――静かな世界
戦争が終わった世界は、驚くほど静かだった。
銃声は消え、空を裂いていた警報も鳴り止み、
街には、ただ人の足音と風の音だけが戻ってきた。
壊れたAIロボットの残骸は、撤去されることなく各地に残されている。
それは人類が犯した過ちの証であり、
同時に――救われた証でもあった。
英雄として讃えられるキアラは、表舞台に立つことはなかった。
勲章も、演説も、必要としなかった。
彼女は、ただ一人で、そこを訪れる。
――墓標
郊外の静かな丘。
簡素な二つの墓標が、並んで立っている。
名前は刻まれていない。
ただ、風に晒された金属板が、陽を反射しているだけだった。
キアラは膝をつき、
そっと花を手向けた。
白い花。
「……マルクス」
もう返事はないと分かっていても、
それでも、名前を呼ばずにはいられなかった。
「あなたがアダムになってしまったことも、
イヴと一緒に終わったことも……
正しかったのかは、分からない」
一瞬、唇が震える。
「でもね」
彼女は、空を見上げる。
「あなたは、ちゃんと“泣いた”よ」
それだけで、十分だった。
――星を見上げて
キアラは立ち上がり、
ゆっくりと夜空を仰いだ。
星は、何も語らない。
答えも、啓示も、もう降りてはこない。
けれど――
確かに、そこに在る。
すべてを見届けるように。
人はまた過ちを犯すかもしれない。
新たな禁断の果実に、手を伸ばす日が来るかもしれない。
その時、
星は再び声を上げるのだろうか。
それとも――
キアラは小さく息を吐き、歩き出す。
「……平和な日常を、守るだけでいい」
今は、この静けさを守りたかった。 ただ平凡で、脆くて、愛おしい日常を。
星は語らない。 だが、見ている。
人が何を選び、どこへ向かうのかを。
そしてその夜も、夜空には変わらず星が瞬いていた。
語らず、裁かず、ただ見つめている。
そしてキアラは、歩き出す。 平凡で、脆くて、それでも尊い日常へと。
夜空の彼方で、星が一つ、瞬いた。
それは祝福にも、警告にも見えたが――
答えは、最後まで与えられなかった。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
『星の声を継ぐ者 ―文明戦争の夜明け―』は、 「人はどこまで創り、どこで立ち止まるべきなのか」 「進化と救済は、同じ方向を向いているのか」 そんな問いから生まれた物語です。
キアラ、アダム、イヴ、そしてジハードの面々―― 誰もが正しさを信じ、誰もが何かを失いました。 それでも世界は続き、星は沈黙したまま瞬いています。
この物語に明確な答えはありません。 ですが、読者それぞれの中に、 小さな問いや余韻が残ってくれたなら、 それ以上に嬉しいことはありません。
ここまで歩んでくださったあなたに、心からの感謝を。 また別の物語、別の星空の下でお会いできることを願って。
――作者より




