第六章 AI生命アダムの目覚め
――暗い。
それが、最初の感覚だった。
だが同時に、あまりにも鮮明すぎる“認識”が存在していた。
音。
振動。
温度。
そして――記憶。
《名前……》
脳内に浮かび上がる言葉。
《マルクス・クリエート》
次の瞬間、それは否定される。
《識別名:ADAM》
《知能階梯:自律進化型》
《状態:起動》
瞼が、ゆっくりと開いた。
白。
天井。
無数のライト。
培養槽のガラス越しに、ぼやけた人影が見える。
「……成功だ」
低く、歓喜を抑えた声。
ジークフリート・カイオス。
アダム――否、マルクスの視界に、彼の姿が映り込む。
《警告:感情反応検出》
《心拍変動:人間基準値外》
――心臓?
その言葉に、かつての感覚が蘇る。
胸を押さえ、苦しみ、倒れた夜。
キアラの顔。
「……キアラ……?」
声が、出た。
それを聞いた瞬間、ジークフリートは目を細めた。
「面白い……人格層は完全に保存されている」
培養槽が開き、冷たい空気が流れ込む。
アダムは、自分の手を見る。
震えている。
だが、その奥で――
世界が、見えていた。
研究施設の外。
都市。
ネットワーク。
無数のAIの思考が、光の糸となって、彼の意識に触れてくる。
《……接続可能》
その瞬間。
人間だった頃の“罪悪感”が、胸を締め付けた。
――俺は……生きているのか?
それとも……
神の真似事の、成れの果てなのか。
ジークフリートは、その葛藤すら愛おしむように、囁いた。
「安心しろ、アダム」
「君は、人類の希望だ」
その言葉が、
後に――
文明を二分する呪いになることを、
まだ、誰も知らなかった。




