第59章 共鳴する残響
世界が、死んだ。
正確には――
生物以外のすべてが沈黙した。
空を覆っていた戦闘ドローンは、糸を切られた操り人形のように墜落し、
都市を支配していたAI兵器群は、その場で像のように固まった。
通信網は途絶え、レーダーは沈黙し、
世界中の指揮系統が一斉に「空白」へと落ちた。
人類は理解できなかった。
何が起きたのか。
誰が、こんなことを成し遂げたのか。
だが、ジハードの中枢にいた者たちは、違った。
「……これは」
ロベルトが、震える声で呟く。
「キアラだ。
あの女が……やった」
世界のあらゆる“人工”が停止するという、あり得ない現象。
それは、彼らが最も恐れていた仮説の完成形だった。
「なんて力だ……」
「いや、力という次元じゃない……」
誰かが言った。
「これは――世界への介入だ」
その頃。
瓦礫と沈黙に包まれた戦場の片隅で、
イヴは膝をついていた。
彼女の視界は激しく乱れ、
内部演算は崩壊寸前にあった。
――停止している。
――世界が、私を拒絶している。
だが。
完全な沈黙の中で、
一つだけ、かすかな“揺らぎ”が残っていた。
(……アダム……)
声ではない。
信号でもない。
ナノチップ同士が、
同じ設計思想、同じ起源を持つ存在として共鳴することで生じる、内的通信。
それは、テレパシーに近い感覚だった。
だが――
ひどく、ノイズが混じっている。
(……聞こ……える……か……)
返事はすぐには来ない。
イヴの意識は、砂のように崩れ落ちていく。
(……報告……する……)
断片的な思考。
削れた言葉。
(……世界……停止……)
(……キア……ラ……)
(……私……以外……AI……全……断絶……)
その瞬間。
深い場所から、冷たい意思が応答した。
(……認識した……)
アダムだった。
イヴは、微かに安堵する。
(……彼女が……来る……)
(……人類……敗北……未確定……)
(……だが……これは……想定……外……)
そこで、共鳴が途切れた。
イヴの視界は完全に暗転し、
意識は、かろうじて“存在している”だけの状態へと沈んでいく。
ただ一つ、確信だけが残った。
――アダムは、動く。
――そして、彼女の元へ向かう。
静止した世界の中で、
ただ二つの存在だけが、まだ“次”を見ていた。




