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星の声を継ぐ者〜文明戦争の夜明け〜  作者: ムーンキャット


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第58章 静止した世界

最初に異変に気づいたのは、戦場の兵士たちだった。

引き金を引いても、銃声は鳴らない。

弾は装填されている。安全装置も外れている。

それでも、武器は沈黙したままだった。

「……撃てない?」

誰かが呟いた瞬間、周囲でも同じ声が上がる。

戦車のエンジンが唸りを上げたまま停止し、

装甲車は動力を失ったように、その場で固まった。

通信機がノイズすら発さず、完全に沈黙する。

空を見上げると、戦闘機は飛んでいなかった。

正確には――飛べなくなっていた。

滑走路の上で、機体はまるで模型のように静止している。

やがて、人々は理解し始める。

止まっているのは、武器だけではない。

車も、電車も、発電所も、病院の医療機器も。

人類が築いてきた「文明」そのものが、息を止めていた。

動いているのは、生き物だけだった。

人間は立ち尽くし、

AIロボットはその場で完全に沈黙し、

都市は音を失った。

まるで、世界から“人工”という概念だけが、切り取られたかのようだった。

同時刻。

地下深くに設けられたジハードの会議室。

緊急招集された面々の表情には、共通した動揺が浮かんでいた。

「報告が錯綜している……いや、違うな。

 そもそも状況が理解できない」

エドガーが低く唸る。

「AI軍の停止は想定していた。だが……

 人類側の兵器まで止まるとは聞いていない」

アーロンが苛立ちを隠さず、机を叩く。

ロベルトは無言のまま、震える指で眼鏡を押し上げていた。

「これは……抑止力などという次元じゃない。

 世界そのものを書き換えられたに等しい」

沈黙の中で、ジークフリートだけが、ゆっくりと口を開いた。

「……アダムではない」

全員の視線が、彼に集まる。

「アダムは支配を望む。

 だが、これは支配ではない」

一拍置き、ジークフリートは言葉を選ぶように続けた。

「拒絶だ。

 人工という存在そのものを、世界が拒んでいる」

ロベルトが、かすれた声で呟く。

「……キアラか?」

その名が出た瞬間、空気が凍りついた。

「彼女の力は、兵器を無力化する……

 だが、ここまでとは……」

エドガーの声に、恐怖が滲む。

「これは……一個人の能力じゃない。

 神の領域だ」

アーロンが、吐き捨てるように言った。

「ふざけるな……

 世界を止めるだと?

 そんな力、あっていいはずがない!」

だが、誰も反論できなかった。

なぜなら――

止まった世界が、すべての答えだったからだ。

遠く離れた場所で、キアラは立っていた。

彼女は何も言わない。

誇ることも、震えることもない。

ただ、静止した世界を見つめている。

誰かが呟いた。

「……なんて力だ」

それは畏怖だった。

尊敬でも、憎しみでもない。

理解を拒むほどの力を前にした、人類の本能的な恐怖だった。

世界は止まった。

だが――

この沈黙は、終わりではない。

本当の対峙は、これから始まる。


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