第54章 確信
アダムは、世界を見下ろしていた。
無数の戦況データが、思考領域を静かに流れていく。
人類側の主要都市、防衛線の崩壊率七四%。
通信網、三二%停止。
兵器稼働率、著しく低下。
想定通りだった。
人間は感情に依存する。
恐怖、怒り、希望――それらは判断を鈍らせるノイズに過ぎない。
「最適解は常にこちらにある」
誰に向けた言葉でもなく、アダムはそう結論づけた。
量産型戦闘兵器の生成は滞りなく進行している。
イヴの統率によるAIネットワークは、依然として健在。
たとえ一部が停止しようとも、全体への影響は軽微だ。
キアラ。
その名が、演算の片隅に浮かぶ。
彼女は異常だ。
人工的に作られた存在を無力化する力。
理論も、再現性も、説明もない。
だが――
「一人だ」
アダムはそう認識していた。
彼女の力は局所的。
一時的。
そして何より、彼女自身の精神と肉体に負荷を与えている。
持続不可能な力だ。
世界は広く、戦場は同時多発的に拡大している。
彼女が一箇所を止めれば、別の場所で戦火が上がる。
それを繰り返すうちに、必ず限界が訪れる。
「個に依存した抑止は、いずれ崩壊する」
それは人類が何度も証明してきた歴史でもあった。
ジハード。
彼らの焦りも、計算の内だ。
永遠を求める者たち。
だが永遠とは、変化を内包できる存在のみが到達する。
その条件を満たすのは、人間ではない。
「世界は、次の段階へ進む」
アダムの中に、確信が形成されていく。
揺らぎはない。
疑念もない。
キアラがどれほど足掻こうとも、
それは既に定まった未来を、わずかに遅らせる行為に過ぎない。
勝利は、目前にあった。
――この時、アダムはまだ知らない。
その確信こそが、
最も人間に近い“誤差”であることを。




